――翌日。雪が舞った昨日とは打って変わり、本日は雲一つない快晴。相変わらず冬の寒さが肌を突くが、本日は折角の週末。イクミは気分転換がてら一人でショッピングにでも行こうと昨日と同じ電車に乗っていると……ある少女の姿が視界の端に入った。
「――………ん、あれ……?あの子、もしかして…?…………っ!」
どこか引っかかる物を覚え、目線をその少女に合わせる。――それは間違いなく、あの感じの悪い女子高生。昨日の朝のことを思い出し、一気に頭に血が上ったイクミ。昨日の事をよほど腹に据えかねていたのか、電車が走行中にも拘わらず、足早に因縁の相手との距離を詰めていく。彼女はまだ此方に気付いた素振りはない。イクミはドアに背を預け、スマホを眺めていた件の少女の所まで詰め寄ると、一気に爆乳を相手のそれに押し付ける。
「………?…………ぐっ!?……あ、貴女、は……っ!」
(――気分転換に遊びに行こうとしていたアイは、昨日と同じ電車に乗り、ドアに背を預けスマホを片手に時間を潰していた。特に会話も無く静かな車内で、液晶画面を眺めていたのだが……。――ふと耳に入る、どこかペースの早い足音。単に車両の中を移動するのではなく、明らかにアイに向かって接近する人の気配。しかし、スマホに意識を向けていたアイはそれに気づくのが遅れ…気付いた次の瞬間には、自慢の爆乳が潰されていた。大きく突き出された胸に、強烈な圧。覚えのある感触に顔を上げると、そこには昨日電車で張り合った、憎らしい少女の顔が。
「…………また会ったね…?貧乳さん……!」
敵意を存分に発露させながら、胸を強く押し込むイクミ。爆乳とドアで生意気な少女の胸を挟み撃ちにしながら、たっぷりと悪意の籠った声音で昨日ぶりの再会を告げる。
「………っくぅ……!…何、ですかっ……私に、潰されに…来たんです、かっ……!!」
「………ん、っく……!…逆、だよっ……今日こそ…私が、潰すん、だか、らっ…!!」
不意を突かれ目を白黒させたものの、すぐにアイの目に抑えきれない闘志が宿り、それに呼応するようにイクミの戦意も高揚する。スマホをポケットに押し込み、相手と至近距離で睨み合いながら胸を張り返していくアイ。しかし、いかに3桁超えのアイの胸と言えど、同サイズの爆乳とドアに挟まれては分が悪い。単に押し返すだけでは抜け出せないと判断したアイは、両手をドアに強く押し付け、無理矢理相手を押し返す。イクミとしては、昨日とは異なり此方から仕掛けたにも関わらず、相手の乳房を潰しきれないまま押し返されたという苛立たしい結果に。再び一触即発の雰囲気となった二人、このまま第2ラウンドの幕開けかと思われたが…
「………ここでは目立ち過ぎるので…場所を変えましょうか……。……当然、逃げたりしませんよね……?」
だが、まだ周囲の状況を考える程度の理性がアイには残っていた。……車内はそこそこ混雑しているが、昨日のような満員電車とは程遠い。状況で昨日のような小競り合いなど起こせば、あっという間に注目の的だ。最悪、通報されて補導、という展開も無いとは言えない……。しかしここで出くわしたからには、昨日の借りを返さずにはいられない…そう考えたアイは、相手に場所を変えての勝負を提案する。
「………確かに公共の場でやる、っていうのもあれだしね……。……ふんっ…すぐに潰してあげるからね……?」
イクミも同意し、タイミング良く最寄りの駅で停車した電車から降りると、二人で駅を出る。そこからの行先は決まっていた。過去にも何度か利用した、如何わしい街並みにそびえ立つホテルである。
***
重ねて言うが、アイとイクミは女子高生。普通ならチェックインなど出来ない筈。が、二人の大人びた雰囲気と、とても十代の少女とは思えないスタイルの良さが、子供っぽさの払拭に成功していた。受付をあっさりと通過し、渡された鍵に表記された番号の部屋へ足早に移動する。
「「…………………」」
会話はない。ギスギスした雰囲気のまま廊下を進むが……横に並んで歩くと、時折二人の横乳が、存在を主張するかのように接触する。その度に横目で睨み合う二人。部屋にたどり着く直前まで、どんどんストレスが溜まっていく。
そうして部屋に着くなり、アイの方が扉を開き、イクミもそれに続く。部屋は予想よりも広く、多少暴れても問題は無さそうだった。後ろ手に鍵を閉め、互いに逃げられない状況を作ると、改めて向かい合うイクミとアイ。ホテルの部屋は、女と女の闘技場へと姿を変えた。
「…………それじゃあ、やろっか…昨日の続き……!………ふぅっ…!!」
「………ええ、今度こそ、白黒つけてあげますから……!………はぁっ…!!」
乱雑にコートを投げ捨てると、弾丸のような勢いで飛び出したイクミとアイ。二人の距離は一瞬でゼロになり、接触する瞬間、二人は床を踏み込んで自慢の爆乳をこれまで以上に強く突き出し、最大の武器で相手のそれを潰そうと試みる。そして、仄暗い照明に映し出された二人の影が、重なった。
「――っぐううぅぅぅぅっ!!?…………ッ…!」「あううぅぅぅぅぅぅっ!!?………っ!」
十分に加速の付いた乳房が真正面から激突。肉と肉が衝突する、鈍い大きな音が服越しに響き、反発し合った爆乳が大きく波打つ。あまりの衝撃と激しい痛みに、思わず後ずさりしまう二人。一瞬とは言え、昨日の潰し合いを上回る激痛と息苦しさ、そして胸のぶつけ合いで後退させられるという初めての経験に強い屈辱を抱く。
……相手の忸怩たる思いを露わにした表情を見るに、初撃は相打ち。痛み分けとなった昨日の勝負を思い出し、余計に苛立ちを募らせる。――認めたくはないが、自分と相手の実力はかなり近い所で拮抗しているようで、一切の予断が許されないことを改めて認識させられる。そして、そんな相手だからこそ、後手に回る訳にはいかない。腰を屈め、低い体勢からもう一度飛び出していく。
「まだ、ですっ……はぁぁっ!!……ぁ、ぐううぅぅぅぅぅぅっ!?」
「今度こそっ……やあぁっ!!……ん、はああぁあぁぁっ!?」
再度の激突。数秒前と同等の衝撃と圧迫感に襲われ、二人の口から大きな苦悶の声が上がる。だが、今回はそこでは止まらない。激突の瞬間、イクミは腕を広げ相手の体に巻き付けると、一気に締め上げてアイを拘束――しかし今のところ実力伯仲の敵、考える事は同じだったのか。アイもまた、同じようにイクミの体を締め上げていた。
「…くっ、ん……!この、ままっ……潰して、あげる……!!」
「う、くっ……!?…させ、ませんっ……!!下に、なるのは……貴女、ですっ…!!……いたっ!?……このっ、放して……っ…くうぅっ!!」
「痛っ……!?っ、大人、しくっ……!しな、って……ッ!っ…くぅっ……!!」
どこまでも張り合って来る相手に怒気の籠った視線を刺しながら、がっぷり四つの体勢で組み合い、傍らのベッドに押し倒そうとするイクミとアイ。しかし、同体格ともなればそれも簡単にはいかず、抱き合ったままの二人による熾烈なマウントの奪い合いが始まる。
あえなくバランスを崩し、縺れ合った状態でベッドに倒れ込んだ二人。左手で相手の身体を抱き寄せながら、右手で相手の髪や服を引っ張り回し、ベットの上を転げまわる。しかしそんな壮絶なキャットファイトでも、実力の差は見受けられない。痛みと疲労、ストレスだけが蓄積され、余計に二人の手に力が入る。
***
「………はーっ……はーっ…………く、ぅッ……!!」
「…はぁっ、はぁっ……!!……しつっ、こい……!!」
熾烈なキャットファイトを繰り広げること数十分。今までなら勝負が決していても可笑しくない時間が経過したが、しかし今回は一向に天秤が傾かない。流石に体力の限界が来たのか、二人は睨み合ったまま動かず、互いの髪を掴んだ状態で横倒しに。綺麗にセットした髪は乱れ、よそ行きの私服も皺だらけに。
「……服、脱ぎましょうか……貴女とは、徹底的にやらなければ気が済まないので……!!」
「……いいよ。…こうなったら、とことんまでやってあげるよ……!!」
嫌気が差すどころかますます相手への闘争心を燃やすアイは、とうとう服を脱いでの潰し合いを申し込んだ。当然、イクミもその提案を即座に承諾。一旦髪から手を離しベッドから立ち上がると、相手の少女と向かい合うなり皺だらけの服に手をかける。その間も、相手から片時も視線を逸らさず睨み合う。部屋には服の擦れる音だけが響き、それがより緊張感を煽っていく。
少しして音が止むと、水色の下着を纏ったイクミと赤い下着を身に付けたアイ、と対照的な構図が展開される。
線の見えにくい冬服から下着姿となったことで、剥き出しになった二人のボディライン。改めて見て分かる、その凶器とも言える豊満な乳房、それに不釣り合いなほどに細いウエスト、下着が食い込むほどにむちむちとした肉付きのヒップと太もも…思わず唾をごくりと飲み込んでしまう二人。
しかし、自分がそれに劣っているとは欠片も思わない。全力を尽くせば勝てない相手ではないと踏んだ両者は、対抗心を剥き出しにして互いにポーズを取り、自分の超高校級のスタイルを強調して挑発し合う。極限の張りつめた空気の中、再び対決の火蓋が切られると思われたが……
――いつの間にかイクミの手に握られていた、二つの小さな容器。それを相手の少女に投げ渡し、イクミはこう続けた。
「……………それ、ホテルの人に貰った媚薬だよ。結構、強めな感じの。……私の方からこれを渡したってことは、何がしたいか…分かるよね……?」
「………っ?…………へぇ……こんなものまであるんですね。………えぇ、いいですよ?付き合ってあげます。…私に「これ」を渡したこと…後悔しないといいですね?」
誇示するように爆乳を突き出すことは忘れず、容器の中身を説明するイクミ。一気に中身を煽り、容器をその場に落とすと、ゆっくりと相手の少女の元に詰め寄っていく。体が急に火照り出すのを感じつつも、その視線はずっと相手の少女を捉えて離さない。
アイもまた、投げ渡された容器の正体を知り、さらに闘争心を煽られる。イクミに続き一気に中身を飲み干すと、容器を傍らのテーブルに置き、一歩ずつ相手の少女へと接近していく。相手が誘いに乗ったのを確認したイクミも、一層激しい剣幕で眼前の少女を睨みつける。そして、何方からともなく身を寄せ、大きく露出した染み一つない白い肌を重ね合う。
「んッ………!!」「…ッ………!!」
肌が接触した瞬間、甘美な衝動が体を貫く。どうやら早速媚薬の効果が出て来たらしく、身体が火照り、激しい運動をした直後のように呼吸が乱れ始める。肌が触れただけでこの快感……媚薬の効果はとても強い、と事前に注意を受けていたものの、効力と効きの早さはイクミの想像を軽く超えていた。
ここまでのキャットファイトで昂っていた闘争心が丸ごと興奮に姿を変え、早くも欲情を隠せない様子の二人。
「……はぁ……はぁ…っ………。…そう言えば、まだ名前も聞いてませんでしたね……。……アイ、と言います…。……これから貴女に勝つ私の名前…覚えておいて下さいね……?」
「……はっ…はっ………ぁ………。…イクミだよ。……言っておくけど、アイちゃんなんかには絶対に負けないからね……?」
興奮を隠さぬまま相手の身体を抱擁する。唇が触れそうなほどの至近距離で、相手の名前を聞いていなかったことをふと思い出したアイ。久々に食べでのありそうな相手の名前を知っておきたいと、挑発を交えながら相手の少女の名前を尋ねる。イクミもまた、じっくりと互いの体温と肌の感触を堪能しながら、挑発を返しつつ名乗り返す。
再び会話が途切れる。荒い息遣いのみが響く部屋の中心で、額と額、爆乳と爆乳を重ね合わせ、真正面から睨み合う二人の女子高生………