■Episode3「早漏外来」
その病院に通うには大きな勇気が必要だった。心療内科・泌尿器科なのだが、細部の診療科目に包茎外来と早漏外来があるのだ。主治医が男性でも女性でも、男として情けない悩みを相談しなくてはいけない恥ずかしさがある。
おれが治療を希望したのは早漏だった。自分の持久力がなさすぎることを前々から不安に思っていた。オ○ニーで一分持たないのだ。彼女ができた時にセクロスがしらける光景が目に浮かぶ。高校まではまったく気にならなかった劣等感だ。
きれいな待合室で待つこと二時間。ようやく診察室に呼ばれた。医者も看護師も医療事務員もみんな女性だった。
「初診の方ですね。早漏のお悩み相談でよろしかったでしょうか」
「恥ずかしいんですけど、他人よりかなり持久力がない自覚がありまして」
「いえ全然照れることじゃないですよ。そういう男性は世の中に多いですから」
心を開かせるような優しい口調でおれを見て、先生がカルテを机上に広げた。
問診票に従って先生が突っ込んでくる。自慰で射精するまでだいたい何分かかりますか、どういったシチュエーションに性的興奮を覚えますか、ペニスの大きさに自信はありますか、交際相手を欲しいと思いますか――。
直球でプライバシーをほじられて赤面した。医者だとはいえ恥ずかしい。
やがて先生が診断をくだした。おれの早漏は、慢性的な欲求不満に起因している可能性が高いという。一度も交際経験がなく童貞なので、オ○ニーの快感が脳に刷り込まれ、一刻も早く射精したい心理が働くらしい。一方でホルモン異常も考えられるので検査してみましょうということになった。
「最後の質問ですが、どの程度までの治療を希望されてますか」
「どの程度とおっしゃいますと?」
「男性の平均的な射精時間までか、自在にコントロールできるレベルまでか」
べつに普通でいい。男子力を自慢したい願望はないのだ。
「わかりました。では早速、治療を始めていきましょう」
先生が看護師さんを呼んでなにやら指示した。髪をうなじ辺りで束ね上げた、三十代前半に見える看護師さんだ。首からぶらさがったネームホルダーには須藤ゆかりとある。おかずにできそうな巨乳の美人だった。
須藤さんに案内されて第二処置室に入った。保健室みたいなベッドがある。キャビネットには薬品箱やら点滴パックやら。部屋の隅にある器械は何に使うのだろう?
「早漏改善のトレーニングになるので、全裸になってベッドに寝ていただけますか。脱いだ服はこの籠にお願いします」
「え? 全裸ですか」
「上着を着たままだと射精した時に服を汚してしまうので。心配要りません。処置室には鍵を掛けてます」
そう言われても美人看護師さんの前で全裸になるのはハードルが高い。
だがためらっていても埒が明かないので、覚悟を決めて服を脱いだ。ボクサーパンツを脱衣籠に入れてベッドに仰向けになる。かなり嬉し恥ずかしい。
「初めにどのくらい早漏なのか時間を計りますね。楽にしててください」
須藤さんが白衣のポケットからタイマーを取り出した。エム属性冥利に尽きるシチュエーションなので自然とち○ぽがそり返ってしまう。
「元気ですね。自信持っていいおちん○んですよ」
「ありがとうございます」
微笑まれてちょっと満たされた。
「指で触ります。我慢する必要はありませんから」
人差し指を伸ばした須藤さんが裏筋を撫でた。医療用のゴム手袋をはめている。そのまますりすりと縫い目を擦り、棹全体をくすぐりおろした。
女性に初めて触られる感動におれはあえなく屈服してしまって――。
(……っ!)
矢継ぎ早に射精してしまった。ヘソどころか胸にまで飛び散った。
「出ましたね。精液は身体に異常がないか調べるため検査に回しますね」
須藤さんが採液カップに精子を集めはじめた。
タイム結果を教えてくれないのがいい。気持ちいいかどうか尋ねないのもいい。
医療行為だからこその淡々さがむしろツボだ。
「次からトレーニングに入ります。さっきと同じようにペニスを触りますけど、今度は射精したくなったら右手を挙げてください。止めます」
「寸止めですか」
「一番簡単なトレーニング方法です。我慢して射精欲を鎮める。鎮めたらまた再開する。これを繰り返すと自制が利くようになるんです。お家でもできますよね」
「家だったらできるかもしれないけど看護師さんに手伝われたら自信ないですよ」
「大丈夫ですよ」
余計な精液を拭い取って須藤さんがち○ぽをきれいにしてくれた。
そり返ったままの愚息を委ねる。射精直後なので多少は長持ちするだろうが、巨乳が目の前にあると妄想がふくらんでしまう。何カップあるんだろう。挟んでもらいたい。どんなブラジャーなんだろう。
須藤さんが再び裏筋を指で撫でた。愚息が反応して硬度を増す。だが縫い目をさすられても今度は射精欲が暴走しなかった。
しかしトレーニングなので意図的に射精させようとする処置が続く。裏筋ばかり刺激していた人差し指が範囲を広げ、亀頭の側面と海綿体をカリに沿って移動したのだ。先っぽ全体を征服されて思わず右手を挙げてしまう。
「ち、ちょっとストップ」
「我慢してください。早漏じゃないって暗示をかけるんです」
目を瞑って助言に従った。射精しそびれた愚息が苛立ってピクつている。
……数秒の空白があって処置が再開した。やはり亀頭を弄られるとこそばゆい。だがこれしきの刺激を耐えられないのなら、フェラチオや挿入の時に瞬殺間違いないだろう。不甲斐ないにも程がある。
亀頭責めに耐えたので、須藤さんが処置方法を変えた。左手でフル勃起を握って立たせ、右手を亀頭の真上から被せるようにしてこちょこちょとカリ首を引っ掻いたのだ。
「や、やばいです」
「出さないでください」
須藤さんが手を離す。だが快感の激しいカリ首責めに愚息は暴走し、だらだらと白い粘液を吐き出してしまった。
「もう少しでしたね」
微笑む眼差しはおれを励ますため。蔑みとは正反対だ。
「まだ元気ですね。勃起の持続力は高いと思いますよ」
須藤さんがウェットティッシュで亀頭を拭いてくれた。
「看護師さんが手伝ってくれるからで家でオ○ニーする時はすぐ萎えます」
「じゃあ今度は一人でトレーニングしてみましょうか」
ベッドの傍らに須藤さんが腰掛けた。
「見ててくれるんですか」
「仕事ですから」
夢が叶った。主治医の先生には話したが、おれが最も興奮するシチュエーションはセンズリ鑑賞だ。女の子に情けない姿をガン見してもらう恥辱はエム魂をくすぐる。妄想の大半もそれだった。
が、須藤さんは看護師であってAVの出演者じゃないので、医学的になにか意図があって鑑賞してくれることは察した。ち○ぽの状態を確認するとか早漏レベルを判断するとかそういうことなのだろう。
それでも大満足だ。医療行為に甘えておれはフル勃起を擦り始めた。
「摘むタイプなんですね」
「え……早漏と関係あるんですか」
「いえ。握る患者さんのほうが多いので珍しくて」
美人な看護師さんの顔を見つめた。しっかり見つめ返してくれる。
(看護師さんで興奮してます)
(わかってますよ)
――そんなナイチンゲール精神にあふれたセンズリ鑑賞。
おれは棹の皮を捲りきって溝まで全開にした。手を止めて。理想のシチュエーションに愚息が張りきり、二度も短時間で出したのにまた放出したがったのだ。
「そうそう、その調子。頑張れてます」
須藤さんが小さく拍手してくれた。
おれは破裂しそうな愚息をなだめ、射精欲が落ち着いたところでオ○ニーを再開した。早漏を治したい苦悩と早く射精したい本能とのせめぎ合い。目の前にある巨乳に否応なく妄想を煽られてしまう。このおっぱいに挟まれて射精できたら。授乳手コキでトレーニングを手伝ってもらえたら。
(……違う違う。別のことを考えろ。おれは早漏じゃない)
射精欲が疼くたびに手を止め、充血したペニスを須藤さんに褒めてもらった。
が、絶頂を急かす本能も手強く、数回目の自制を試みた瞬間に射精してしまった。先っぽから滲み出るスペルマを美人な看護師さんが見守ってくれていた。
「次回の来院からも同様の治療になります。三段階のステップがあって上にあがるたびに処置方法が変わりますので覚えておいてください。お薬では治らない症状なので一緒に自信を取り戻しましょうね。精液の検査結果は次回、先生から説明があると思います」
おれが服を着直すと須藤さんが言った。
「次回も須藤さんが担当してくれるんですか」
「それはわからないです。患者さんが多くて忙しいので。ただみんな優しい看護師さんばかりなので心配しなくていいですよ。また看護させていただく機会があったらお願いします」
小さく頭をさげた須藤さんがなにか思い出したように冊子を手渡してくれた。
「トレーニング帳です。面倒だと思いますけどオ○ニーするたびに射精まで何分かかったか、何回寸止めできたか記録してもらえますか。先生の診断に必要なので」
中を見ると日付ごとに罫線が引かれていた。血圧手帳みたいなものか。
お大事に、と笑顔で待合室に見送ってくれた須藤さんに勇気をもらった気がした。
どうやらこの病院で早漏改善できそうだ――。
Episode3「早漏外来」END