彼女の最後の出勤日を迎えました。前日にもお別れ会があったのですが、彼女は出席しなかったため、「明日は2人でお別れ会しよっか?」と前日から言い合っていました。
当日の朝、朝礼の前に会った時、
「何食べたい?やっぱりパンケーキとか?何でも御馳走するよ。」
「え〜っと・・考えといて良いですか?」
「うん、楽しみにしてるわ」
「アタシも楽しみです」
と、笑顔で言葉を交わして仕事に。休憩時間に彼女が現れ、
「ラーメンが食べたいです。」
「そんなので良いの?」
「はい、女の子だけではいけないし、アタシって麺類好きじゃないですか?だから。」
「うん、じゃあそれでいいなら。」
「やった〜、Sさんのオススメのところに行きたいんで。美味しいところいっぱい知ってるますよね?」
「まあ・・・Aさんの乗り換える駅近くが良いよね?」
「はい、じゃあ考えといてくださいね。楽しみにしてますね。」
再び笑顔で話す可愛い彼女。そう、僕等はお互いに少なくとも相手の好意を感じ取ってはいたはずながら、最後まで連絡先を交換しませんでした。そして、”Sさん”と”Aさん”という名字にさん付けで呼ぶだけでした。だから何かをする時もLINEなどメールや電話でコンタクトを取る事が出来ず、直接伝えないといけなかったのです。
あれだけ毎日一緒に帰りながら、手も握らず。相手を呼ぶのに髪や肩を触ったりも一切しませんでした。自然に、というよりも、僕の場合は意識してそうしていたため、同僚の男性が自然と肩を触ったりしてAさんを呼ぶ行為すらにも嫉妬してしまう事もありました。何しろ、彼女にはスペイン人の彼氏がいて、9月にはその彼氏と共にスペインへ留学へ行ってしまう事が決まっており、何より彼女は学生であり、僕とは10歳の年の差があるんですから。
僕等は電車のホームのいつも通りの場所で自然と2人で待ち合わせていました。しかし、この日はこれまでにも何度かあった他の同僚スタッフが入って来たため、2人きりというわけには行きませんでした。また、その同僚スタッフが自分の話をするのが多く、僕等はお互いにあまり会話を交わせず。いつものように顔を寄せ合うような事もなく、逆に露出度の高さを指摘されながらガン見している事に嫉妬さえするくらいでした。
そして、彼女が乗り換えする大きな駅で降りました。それでもこの同僚スタッフはしつこく付いて来ようとして、「Sさん、今日は用事ですか?いつもは○○駅では?」と余計な質問までされて・・・、結局、「大きな本屋に行かないとないのがあって、それであそこの本屋に」と言って、彼女も「アタシも行くとこだったんです。」と言葉を合わせて本屋に入り、この同僚に話題を合わせて同じ方向へ歩き、彼女が「アタシはあっちの女性誌見たいんで」と言っていったん離れると、同僚スタッフが「お手洗いへどこありますかね?」と言うので案内し、これはチャンスと思い、「僕はあんまり時間ないんで先に本買って帰りますんで、お疲れ様でした。」と言って離れ、即座に女性誌のコーナーへ。「Aさん、チャンスチャンス、今のうちに出よう」としつこい同僚スタッフを本屋に置き去りにできました。
彼もきっと彼女を狙っていたのでしょう。当然ながら彼女が最終日だった事も知っていますし、もしかしたら僕等が2人で何処かへ行こうとしてるのも知っていたのかもしれません。
「やっと2人きりになれたね」
「そうですね。”やっと”ですよ〜ウフフッ」
と言う感じで、僕のオススメのラーメン屋に。なぜか味が凄く美味しく、特徴のある出汁なのに、お客さんが少ない店なので、この日もゆったりと座れました。
「これくらい全部御馳走するから心配せんで良いよ」
と言いながら、食券を購入して店内へ。時間もそこそこにラーメンが出てくると、彼女が不思議な行動に出ました。
「Sさんの写真撮って良いですか?」
と突然、僕の写真を撮り始めました。写真?いったい何に使うのでしょうか?
「良いよ。ていうか、もう同僚ではないんやから、"さん"付けしなくて良いよ。今日はデートやろ?それとも会社のお別れ会の延長?」
「はい。じゃあ・・シン?でいいですか?」
「じゃあデートなんや?ヒューヒュー」と僕は茶化しながら、
「ダメ。シンでいい?ってタメ口にして。それと"ましろ"って呼んでいい?」
「うん、シン・・・美味しいね」
などと言いながら、話題は出会ってから2カ月ほどの事を振り返るような内容に。仕事中の事や、今まで2人で会話した内容をお互いに思い返したりなどなど。本当に楽しい時間でした。付き合ってなくても、「この時間が続いてくれれば良い」と思える時間でした。けして彼氏の話題にはしないのも彼女なりの僕の気持ちに気付いての配慮なのかもしれません。そして、
「ましろと仲良くなれて面白かったよ。『セクハラですよ』とか言わせて、色々嫌な思いもさせたかもしれないけど、ましろと働けて楽しかったよ」
「ええ?全然嫌な想いなんてしてないよ。シンと働けてアタシも楽しかったよ。」
「ひと夏の思い出やね」と言うと、
「2015年の夏に『ましろっていう娘がいたな』って思い出すくらいは覚えててね」
と言い合って、今までの事をお互いに噛みしめていました。
しかし、時間はあっという間に過ぎ、本当にお別れの時間に。お店を出て、最後に「LINEだけでも交換しよう」と何とか僕は切り出せたのでQRコードで連絡網はゲット。今後も友達として繋がれるので、僕の中では「10歳下の娘とそれだけでも関係作れたらいいか?」と思ったいたのですが、
「じゃあ、お疲れ様でした。本当にありがとうございました。お元気で。」と、お互いに頭を下げて挨拶を交わした時でした。
彼女の顔が真っ赤になり、口元がピクピクと動いているのがハッキリしていました。思わず泣き出してしまいそうな。そう、男が思わず抱きしめたくなるような表情。そんな彼女を見た時、僕は今まで手や肩に触れる事すら我慢していた理性がとれ、握手している手を自分の体の側に引っ張って、ましろを抱きしめてしまいました。
「好きだよ」
という言葉と共に。彼女も嫌がる素振りもせず、逆に僕の背中に手を回して強くなるのを感じたので、受け入れてくれたのも感じ取る事が出来ました。おそらく1分間ほど、僕等は抱き合っていました。傍から見えないのでどう見えていたかは分かりませんが、乗り換えのある駅なので人通りの多い中で、僕とましろは抱き合っていました。キスへ発展する事はありませんでしたが、僕はアドレナリン出まくりの興奮と、気持ちを解き放ち、受け入れられた安堵感という今までに味わった事のない状況と感情に陥り、それでも彼女のオッパイが自分のカラダに当たって、しかも抱き合う事による締め付け感に興奮していたのか?勃起してしまいました。
(続く)