【変態世相 猥言の達人 其の四】
※個人名は全て仮名です。私の体験をもとに書き起こしておりますが、状況をご理解いただくために私の脚色が多少入っておりますことをご了承願います。
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次の日。まだまだ常連様の少なかった私には、珍しく二日連続のご指名をいただいておりました。今日のお相手は常連様の和田様(仮名)。和田様は私の常連様第一号の殿方。個人で開業なさっておられるとてもお優しいお医者様です。
ご指名をいただきながら、プレイの時間がほとんどなくなるくらい、いつも私の相談にのっていただいたり身体の診察をしていただいたり……。本来なら私がお代をお支払いするべきなのに、決まって「楽しかったよ」とおっしゃってお帰りになる聖人のような殿方です。
その日も和田先生の前で全裸になると、昨日山本様から受けた乳房のお仕置きアザに驚きの目を向けられました。
「どうしたんだい、そのおっぱい。きついプレイでもしたの? ひどいな、それ。」
「いえ……その……、プレイってわけじゃ……。あ、いや……、やっぱり……プレイかしら……。」
「ちょっと診せてごらん。こっちきて。」
またいつも通りの乳房の診察を受けることになってしまいました。「ミサトちゃんのお乳が出なくなったら僕が困る」とおっしゃって、私の乳房や母乳の状態はいつも気にかけていただいているのです。
和田先生の診察はいつも的確です。乳房の状態だけ診られて、私の生理周期をずばり言い当てられるほどです。これが和田先生にとってプレイの一環であって欲しいと願いたくなるほど、ルーペと触診で念入りに乳房を検査していただきました。
「うーん、診たところ、大きな外傷はないみたいだな。乳腺が腫れてるところもなさそうだし。皮下出血ぐらいかな。痛むかい?」
「ま、まぁ少し……。大丈夫です、先生。おっぱいで遊んでいただいても私ぜんぜん平気です。アザはごめんなさい……。」
「相当やられたな。えーと、ああ、乳頭は無傷のようだね。お乳はどうだい? 詰まってないかい?」
「い、いつも通りです。お乳飲まれますか? 今、マッサージしますから……。」
「いや、ちょっと待って。これは叩かれたアザだろ? 過激なオプションが入ったの?」
「い、いえ……。オプってわけじゃ……。ま、それはいいじゃないですか。先生、お乳飲まれますよね?」
馬鹿な私……。オプションって申し上げておけば和田先生にご心配をおかけすることもなかったのに……。どこかで先生に慰めて欲しい気持ちがあったのですね。
「良くないよ、それ。オプションじゃなきゃ何なの? 彼氏のDVとか?」
「ま、まさか、彼氏なんかいるわけないじゃないですか……。」
「じゃ、客に叩かれたんだ。オプションでもないのに……。ひどい輩もいるもんだ。お店にちゃんと言った? 僕がぶっとばしてやろうか?」
お優しい和田先生とも思えないご発言。こんな売女をいつも大切に思っていただいて、何だか涙が出てきます。
「そ、そんなんじゃないんですよ、先生。私がね、私がいけなかったんです……。私が……ぐすっ……。」
そう申し上げると、昨日から我慢していたものが一気にこみ上げてきて、あろうことか和田先生の前で泣き出してしまいました。デリ嬢とは思えぬ甘えぶり。とてもプロの仕事とは言えません。
和田先生は泣きじゃくる私を傍らに座らせ、肩を抱いていただきながら昨日の一部始終を聞いてくださいました。
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「なるほどな……。ボインか……。」
「はい……。私、一生懸命、ボイン何々って、聞いてた通りに申し上げてるのに、その度に、ちがう! っておっしゃって……。それで、もの凄くお怒りになって、おっぱい何回も何回もぶたれるんです。もう私、怖くて怖くて……。ううっ……。」
「そうかぁ。おっぱい叩くんだ。かわいそうになぁ。痛かったろう?」
「はい……。ひっ、ひっく、うわーん……。」
慰められると余計に悲しくなります。これは女のずるい習性です。
「その人にとっては、ボインって言葉とおっぱいを叩くって行為に最高の快楽があるんだろうな。おそらくその二つセットじゃないと絶頂に達しきれないんだと思うよ。」
「ぐすっ……。どういうこと? 先生。」
「ボインはともかく、ミサトちゃんぐらい大きなおっぱいだと、ちょっとぶってみたいという衝動は少なからずあるんじゃないかな、おっぱい好きの男なら。」
「先生も?」
「恥ずかしながら、ちょっとあるな。柔らかいおっぱいを叩いて弾むところを見てみたいという衝動なのかなぁ。本能と言ってもいい。ただ、それを行動にするかしないかの違いさ。」
「ほんとに痛いんですよ、ぶたれるの。」
「知ってるよ。急所だもんね。でも、おっぱいを叩くのはミサトちゃんが憎くて叩いてるんじゃないんだ。説明のつかない衝動さ。その衝動にプラスしてミサトちゃんにボインって言わせることが重要なんだろう。その人にとってはさ。」
「私が、ボイン……って?」
「そう。ボインって言葉はさぁ、男にとっては特別な言葉なんだよ。週刊誌の吊り広告やAVのタイトルにボインって書いてあると、意識しなくてもそこに目がいってしまうんだ。視界の片隅にあっても必ず見つけてしまう、マジック・ワードさ。」
「そうなの? 先生も同じ?」
「同じさ。男だもん。男はみんなボインが大好きさ。男の本能をくすぐる商業広告用のアイ・キャッチャーとしてはとても強力な言葉だと思うよ。」
「そういうものかしら……。おっぱいじゃダメなの?」
「もちろん、おっぱいでも目が向くよ。でもさ、ボインに比べたらインパクトは少し弱いかな。ボインは特別だよ。」
「どんな風に?」
「おっぱいって言葉よりもずっと卑猥でエロチックな感じがするね。でも男はボインって言葉が大好きなくせに、口にしようとすると恥ずかしくて絶対に言えないんだ。ミサトちゃんは男がボイン、ボインって言うのを日頃聞いたことがある?」
「ないです。今回の人が初めて。」
「人前でボインなんて絶対恥ずかしくて言えないのに、何よりも気になっているのがボインって言葉さ。おもしろいだろ?」
「はい、とっても!」
「そんな恥ずかしくて大好きな言葉をだよ、ミサトちゃんみたいに大きなおっぱいした可愛い女の子に言ってもらったら、男はもう悶絶ものだよ、ほんと。」
「私がですか? ボインって言葉は女でも恥ずかしいんですけど……。」
「そこなんだよ、その人の一層燃え上がるファクターは。恥ずかしがるミサトちゃんにボインって言ってもらいたいんだ。まぁ、恥ずかしがらずとも、女性にボインって言わせることこそが重要なのかな。だからわざとボイン何々って言うのを言い違えてみたり、突然変えてみたりするわけだよ。」
「そうだったの……。私、ぜんぜん……。最悪の態度をとってしまったわ……。」
「実際におっぱいを叩くのはどうかと思うけど、彼にとってどうにもやりきれない性欲がミサトちゃんのおっぱいに向けられているのは確かだな。おっぱいを叩くことによって、女性がボイン、ボインって叫んでくれたら最高のエクスタシーを感じるんだろうね。」
先生のおっしゃる通り、思い当たる光景が私の頭の中をよぎります。
「でも残念ながら、彼はその行為で一度も達したことはないんじゃないかな。聞いている分には彼が達する条件を満たしているようには思えない。だいいち、その条件を受け入れてくれる女の子がそうそういるもんじゃない……。」
「ああ、何にも解って差し上げられなかった……。」
私は和田先生のお話を聞いてとても恥じ入りました。ボインという言葉に苦しみ、ただ乳房を殴打されたという被害者意識が先に立つだけで、山本様のお気持ちを少しも理解しようとしてませんでした……。
確かに和田先生のおっしゃる通り、180分もの長時間の指名を受けながら、山本様が放出されたのはパイズリの一回のみ。こんなことで母乳デリのプロを名乗るなどもってのほかです。
山本様の大好きな乳房を叩く行為に終始しながら、私が抵抗するばかりで、山本様は少しも満たされてはいなかったのです。「乳のおもてなし」が聞いてあきれます。
「それにしてもミサトちゃんさ、ボイン汁なんて最高の淫語だと思わないかい? もの凄く卑猥な感じがするよ。凄いセンスだよ、まったく。」
「ボイン…じ…る……。そうですね、先生。何だかすごくエッチな響きがします。あの時はぜんぜん気づかなかったわ。ほんと、すごいエッチです。」
「淫語としてなら最高傑作だと思うよ。ボイン汁なんて……。ボインミルクなんかよりずっといい。彼にとっては己の魂を込めた言霊(ことだま)なんだろうな。ボイン汁って言葉に霊妙な力を宿させてエクスタシーを得ようとしてるみたいだ。ボイン汁、気に入ったよ。僕も使わせてもらうよ。」
「ボイン汁……。先生がおっしゃると、何だか凄くゾクゾクします。あの方がこんなエッチな言葉をおっしゃっていたなんて……。私、本当に浅はかでした。淫語扱いの凄い人だったのね……。」
「元気になったようだね?」
「はい、とっても。」
「じゃあ、僕もミサトちゃんのボイン汁飲ませてもらっていいかな?」
「もちろんです、先生! 待ってくださいね、今マッサージしますから。最高のボイン汁を出させていただきます。たっぷり召し上がってくださいね!」
和田先生に心の内因を取り除いていただいた私は、もう一度山本様のご指名をお待ちすることを心に決めました。
ただし、次にご指名があればの話です……。可能性は限りなく低いでしょう。これで他の嬢やヒトミさんに戻られてしまったら私の敗北が決定します。さて、どうなるでしょうか……。