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『矜持衝突』改訂版・続編 Angel Heart 21/6/9(水) 14:02 小説
『矜持衝突 そして伝説へ……』 Angel Heart 21/6/9(水) 14:43 小説
『矜持衝突 そして伝説へ……』 Angel Heart 21/6/9(水) 15:02 小説
Re:『矜持衝突 そして伝説へ……』 Angel Heart 21/6/11(金) 18:21
『矜持衝突 初めての勲章』 Angel Heart 21/6/13(日) 16:42 小説
Re:『矜持衝突 初めての勲章』 矜持衝突ファン 21/6/14(月) 1:49
Re:『矜持衝突 初めての勲章』 Angel Heart 21/6/14(月) 14:17
Re:『矜持衝突 初めての勲章』 Mr.774 21/6/15(火) 20:51
Re:『矜持衝突 初めての勲章』 Angel Heart 21/6/16(水) 9:56
『矜持衝突 大いなる野望、ささやかな夢』 Angel Heart 21/6/16(水) 17:04 小説
Re:『矜持衝突 大いなる野望、ささやかな夢』 松永先生 21/6/16(水) 18:10

『矜持衝突』改訂版・続編 小説  Angel Heart  - 21/6/9(水) 14:02 -

      妄想寄稿『矜持衝突・改訂版』

 エアブレーキの音が響き、構内アナウンスが流れるとすぐ電車のドアが開いた。
 眞理子は降車する数人の乗客と入れ違いに車内に乗り込み、いつものように指定席に向かった。時間帯が通勤・通学ラッシュ時とはいえ、聖フォレスト女学院高校で皆から崇敬されている彼女は、暗黙の了解で空けられたシートに腰を据えることができるのだ。それは乗客の九割が同じ学校の生徒で占められる女性専用車両ゆえの特権だった。
「おはようございます」
「おはよ」
「眞理子先輩、おはようございます」
「おはよ」
 会釈と共に次々と後輩から掛けられる言葉に、眞理子はいちいち返事をした。
 崇敬される人間は不遜であってはならない――。眞理子はそれを自戒としていた。たとえ《乳比べ勝利数》のランキング王者だとしても、その地位に胡坐(あぐら)をかいていてはいずれ人望を失う。尊大になった覇者が自滅していった例は歴史上無数にあるのだ。
 数十名の女子高生で埋まる車両。デオドラントの香りが立ち込める車内。
 だが眞理子は、自動的に通り道がつくられていく人ごみを進みながら、普段とは違う空気を感じていた。指定席に向かってゆくなかで、次第に後輩たちの声が弱まり、何かに怯えているような印象を受けたのだ。まるで自分だけが何も知らされていないかのように。
 答えがわかったのは指定席のある横掛けのシートに辿り着いた時だった。

「……で、これがその時に撮った写真。結構かっこいいでしょ?」
「嘘!? こんなイケメンが来るってわかってたら、私もカラオケ行ったのに」
 眞理子が座るべきはずの座席に、違う制服を着た女子生徒が座っていた。
「ねえ、ちょっと」
「この人とは一応、アドレスも交換して何回かLINEもやってて」
「聞こえてんの? あんたに言ってんだけど」
 眞理子の語気がふと強くなった。後輩や友人たちが見ている手前、無視されたことに軽く自尊心が傷ついたのだ。聖ブレスト女学園高校の制服を着た生徒がやっと眞理子の存在に気づいた。
「え? なに? 私?」
「その席、私が座る場所なんだけど。どいてくれない?」
「……は? いきなり意味わかんないし。『どけ』だって」
 眞理子はムッとした。車内に険悪なムードが漂い始める。
「そこって私がいつも座ってる席なの。邪魔だからどいてってば」
「そんなこと言われてもさ、別に聖フォレスト女学院専用とか書いてないじゃん。座りたかったら他の場所に行けば?」
 眞理子の矜持が傷ついた。相手が同じ学校の生徒なら、非礼を詫びて彼女に席を譲るところだ。が、セミロングの女はいっこうに席を譲らない。それどころか眞理子の存在など意に介さないように、目線すら合わせなかった。眞理子が聖フォレスト女学院の《比べっこクイーン》だとしても、それが他校には通じない証だ。
 眞理子は鋭い視線で女を見おろした。
「どけって言ってんのが聞こえないの? 貧乳」
 反応したセミロングが眞理子を睨み返す。
「そんなにどいて欲しかったらそれなりの頼み方ってあるんじゃない? いきなり『どけ』とか『私の席だ』とかって、あんた何様のつもり?」
 険悪な空気が一気に拡大する。ベルが鳴って電車が走り出した。
「ブレスト学園の連中に礼儀なんて要らないの。ここは私の座席。学校中から崇敬される人間の指定席なの。つべこべ言ってないで早くどいて。このぺちゃパイ」
 胸をなじられることが女の沸点だったらしい。吊革に掴まって立ち上がると臆することなく眞理子と対峙した。膝に抱えていたバッグがよけられてみれば、眞理子並みに盛り上がるブラウス。

「ひょっとしてあんたが丹羽眞理子?」
「だからなによ」
 相手の口から自分の名前が出たことに、眞理子は一瞬だけ戸惑った。
「一度会ってみたいと思ってたけど、まさかこんな場所で遭うとは思わなかったわ。みんなから尊敬される比べっこ四天王さんなら知ってるわよね。結城萌美って名前」
 車両中がざわついた。結城萌美といえば、聖フォレスト女学院高校にもその名が響き渡る、聖ブレスト女学園高校の比べっこクイーンだ。女学院ほど厳密な格付けはないものの、それでも女子高ゆえのランキング校風が聖ブレスト女学園にも存在する。部活の対戦相手、学校の保健医、ランジェリーショップの店員、OL、そして聖フォレスト女学院の生徒――と、結城萌美が斃した巨乳は数え切れなかった。隠密裏に勝利を稼いでゆく強敵の存在に《比べっこ四天王》たちは密かな脅威を感じていた。
「その顔だと知ってるみたいね。……私がその結城萌美。たった今、聖フォレスト女学院の比べっこ四天王に挑戦状をたたきつけたところ」
「それってここで勝負するっていう意味かしら?」
「それ以外の意味に聞こえたのなら、あんたの国語力が皆無っていう証拠ね。巨乳の威厳が傷つくから馬鹿はもっと勉強して」
 聖フォレスト女学院の生徒たちが息を呑む。眞理子に対してこれだけの口が利ける女を見たことがなかったからだ。
 宣戦布告の急報を知らせる伝令が数人、他の車両に移動し始めた。
「馬鹿はそっちでしょ? さっきから聞いてればイケメンだとかLINEだとかコンパごっこに盛り上がったりして。おっぱいを餌に男を釣ると同輩の品位が傷つくから、お願いだから死んで」
「それって嫉妬? もしかして比べっこ四天王さんって彼氏なしなの? モデル並みの美人だってもてはやされてるくせに」
 打てば響く問答に眞理子の矜持が挑発されてゆく。
 彼氏なしの劣等感をなじられ、思わず眞理子は激昂した。
「私のJカップに相応しいのはそれなりの男だけよ」
「Jカップはあんただけの特権じゃないってば!」

 唐突にぶつかる二つのJカップ。眞理子が胸を張ると同時に萌美もバストを強調したのだ。互いにフルカップを透けブラさせながら、ブラウス越しにふくらみを押しつけあう。
 盛り上がったブラウスがあっという間に凹み、巨大な乳房が力学の法則に従った。眞理子が押せば萌美が押し返し、萌美が押せば眞理子が押し返した。
 作用・反作用の法則に従い、ふたつのJカップが潰し、潰されあう。
「口ほどにもないわね。あんたの胸、ほんとにJカップなの?」
「あんたこそ四天王なんか返上しなさいよ! こんな貧弱な胸なんだから!」
 吊革から手を放した萌美が、全体重をJカップにのせて眞理子を押す。
 眞理子はその圧力を返り討ちするように、思いっきりバストを前に出した。
 がっぷりよつのおっぱい相撲は埒が明かない。互いに胸を押しつけ合えば押しつけ合うほど、ブラジャーがズレてゆくのが透けて見えるだけだ。
 車窓の外で景色が流れてゆき、生徒たちが勝負の行方を見守る。
「カップは同じでもトップサイズは私の方が大きいの」
「なによ。私の胸囲なんか知らないくせに!」
 ぶちっ……ぱちんっ、ばちっ……と、ふたりのブラウスからボタンが弾け飛んだ。純粋なトップサイズだけを競うように、眞理子と萌美が最大限に胸を張ったのだ。それは爆乳ゆえにできる示威行動だった。
 ボタンが吹っ飛んだブラウスの隙間から、眞理子の豊満なバストと花柄のブラが、萌美の深すぎる谷間と淡いピンク色のブラが覗き見える。
 成長期のプライドを賭けた女同士の戦い――。
「シンプルで清楚なブラね。ブレスト学園の女って言ったら、もっと派手で遊んでるイメージがあったんだけど」
「あんたこそ花柄なんてかわいいじゃない。男の目を気にしていつも勝負下着なんだ」
 毒のこもった褒めあい。第2ラウンドの始まりだ。おっぱい相撲で勝敗がつかなかった場合、相手を褒め称えたうえで挑発することがある。

「Angel Heartブランドのオーダーメイドブラ、J70」
「Forest of Breastブランドのオーダーメイドブラ、J65」
 ボタンが弾け飛んだブラウスを脱ぎ、互いにブラのメーカーとサイズを言い合う。これもルールだ。正々堂々と決着をつけるため、サイズは正直に伝える。言わば合戦における武士どうしの名乗り合い。卑怯な真似はしない、と。
 ふたりは背中に手を回して三段ホックを外すと、巨大なフルカップを取り去った。
 どちらも大きくU字型に垂れさがるバスト。眞理子のそれは重たく柔らかそうな印象を与え、萌美のそれは色白で張りと弾力のある印象を与えた。眞理子のJカップが圧殺に特化した爆乳なら、萌美のJカップはおっぱいボクシングに特化したバストだった。
「四天王の頂点に立つランキング王者さんなら、当然、こんなことは朝飯前よね?」
 左右の乳房を持ち上げた萌美が、自らの乳首を交互に舐める。《セルフ舐め》という、爆乳ゆえに可能な基本技で、相手の技量を測る意味合いがある。
 眞理子も重たげな乳房を持ち上げる。
「馬鹿にしないで。セルフ舐めくらいなんでもないわ。れろれろれろ。ちゅぱっ」
「両方の乳首を同時に舐められるの? れろれろ、ちゅぱっ、ちゅぱっ」
「あんたみたいに俯かなくてもできるわよ。おっぱいを手前に折り返せば届くんだもの」
 れろれろ……ぺろぺろと、眞理子は掴んだ乳房を折り曲げて平然と乳首を吸った。萌美のように顔を俯けなくても、真正面を向いたままセルフ舐めができる。
 貧乳にとっては不可能な、けれど爆乳にとって基本的な特技の応酬を、周りの生徒たちは驚愕と羨望の眼差しで見つめていた。

 宣戦布告の急報を聞いた野次馬たちが、人ごみを掻き分けて車両に殺到する。
「セルフ舐めなんてつまんないわ。あんたがほんとにブレスト学園の比べっこクイーンなら、もちろん、両方の乳首を擦り合わせられるんでしょ?」
「当然よ。見下してもらっちゃ困るわ」
 眞理子の挑発に乗るように、萌美は持ち上げた乳房を内側に折り、左右の突起を擦り合わせた。自らの乳首で自らの乳首を刺激する《セルフ合わせ》だ。
 が、いかんせん張りと弾力が強いためか、重ね合わせるのに少し手間取る。
「慣れてないみたいね。自信たっぷりの口振りだったくせに」
「ここまでの対決に持ち込む前に、大抵の挑戦者は私に白旗を揚げてたから。セルフ合わせに慣れてるなんて、逆にいえばあんたの胸が貧弱な証拠でしょ?」
「減らず口を! ほんとのセルフ合わせはこうやるのよっ!」
 萌美の逆挑発に乗せられた眞理子が、持ち上げた乳房を折って乳首を擦り合わせた。
 くすんだ桜色の突起が激しく擦れ合い、その音すら聞こえそうな勢いだった。
 萌美が一瞬だけ怯み、眞理子の高速セルフ合わせに目を見開く。
 わずかに眞理子がポイントを稼いだ。しかし圧倒的な差ではない。
「乳首立ってんじゃないの! セルフ合わせで!」
 むにゅっ、と、いきなり萌美が眞理子のバストに向け、張りと弾力のある乳房を押しつけた。現役女子高生のふくらみが押しつけ合わされ、若い盛り上がりが柔らかそうに潰される。
 ――第3ラウンド。生乳と矜持とが衝突し、第1ラウンドより激しい攻防が繰り広げられる。直に乳首が触れ合うおっぱいレスリングでは間違っても乳首を立たせてはいけない。それは相手の攻撃に屈した証拠であり、かつ自分の胸が貧弱な証拠なのだから。
 声を殺して見守る野次馬たちのなかで、比べっこ女王の冠を戴くふたりの覇者は、互いのプライドを賭けて頂上決戦を加速させた。

「ほら……張りのあるJカップって押しつけられると痛いでしょ? あんたの胸、私のバストに潰されてるわよ。やせ我慢してないで早く『痛い』って叫んだら?」
「笑わせないで。私のJカップは柔らかいの。潰されてるんじゃなくて受け止めてるだけよ」
 萌美が美白の爆乳を押しつけると、眞理子は少し顔を顰めてそれを押し返した。
 正直なところ、萌美の張りと弾力は強い。プリンにマシュマロがあてられているような感覚があった。けれど迂闊に「痛い」と叫んではそこで勝負は終わりだ。比べっこ女王の威厳は引き裂かれ、眞理子は過去の偉人になるだろう。それだけは許せなかった。
「往生際が悪いのね。さっさと負けを認めれば楽になれるのに」
 自分の優位を悟った萌美が意図的に左右の乳首を眞理子のそれに合わせる。敏感な突起を攻撃することで、ポイントの差を一気に広げようとしたのだ。
 現役女子高生の乳首どうしが擦れ合い、互いの神経に電流が走る。性感体を真っ向から攻める乳首合わせはハイリスク・ハイリターンの勝負技だ。相手が乳首を立たせれば一気にポイントが稼げ、反対に自分が乳首を立たせてしまえば一気に差を縮められてしまう。
 萌美はその危険な賭けに出た。
 しかしそれは眞理子の戦術範疇だった。
「素人ね。それでも優位に立ったつもり?」
「何がよ!」
「経験値が低いくせに、いきなり乳首合わせしてくるなんてあんた馬鹿じゃないの? 私のバストは何度も修羅場をくぐり抜けてるの。貧乳相手に勝ち続けて自惚れるあんたの胸と違って、私のJカップは比べ勝負に順応してる。乳首合わせで突起しない冷静さと、男に抱かれた時に突起する感度を使い分けられるのよ。あんたの攻撃なんかなんでもないわ。――ほら、その証拠に乳首が立ってきてるのはどっちかしら?」
 張りのあるバストに圧されているはずのふくらみは、依然として平静さを保っていた。
 一方で優位に奢った萌美の乳首は、いつの間にかつんと上を向き始めている。
 萌美の頬が引き攣った。
 野次馬たちが無言のエールを眞理子に送った。

 激昂した萌美が左右の乳房を持ち上げ、眞理子の左胸を挟んだ。
 眞理子も萌美の左胸を挟み、ありったけの力を振り絞って相手のJカップを潰す。
 歯車がかみ合うような爆乳の挟み合い。文字通りのパイ挟みと言っていい。
 おっぱいがおっぱいを挟み、乳房が乳房を挟んだ。真正面から押しつけ合うより痛覚に訴える。愛撫ではないからつねられる感覚に近いのだ。
「それでも潰してるつもりっ……!」
「これからが本気よ!」
 ふたりの顔は拮抗する痛みに歪んでいた。相手のJカップを圧迫すればするほど、跳ね返ってくる圧力は大きくなる。二次性徴のあの痛みを――ふくらみかけの胸を押された時のあの痛みを、何倍にも何十倍にも増幅させたような激痛が続いた。
 眞理子が乳房を交互に揺すって摩擦すれば、萌美も同様の方法で報復する。
 車内はしんと静まり返っていた。誰もが壮絶な光景に気圧(けお)されていた。

 やがてJカップどうしのパイズリ合いは小康状態に陥り、どちらからともなく乳房を振るった。体を大きく捻った勢いで放たれた乳房が、遠心力を味方につけて衝突する。
 ばちんぃッ! バチぃぃん――っ!!
 Jカップのおっぱいボクシングは途轍もない迫力だった。もはや凶器と化した乳房が互いのそれを引っぱたき合い、乾いた音が車両中に響き渡る。
 眞理子のやわらかなバストが弾性力を誇示すれば、張りのある萌美のふくらみは運動エネルギーを主張した。巨大な水風船どうしをぶつけ合っているようだ。
「あんたのバストなんか!」
「早く『痛い』って喚きなさいってば!」
 ばちんぃッ! バチぃぃん――っ!!
 眞理子の乳房が波打つ。萌美の爆乳が揺れた。
 渾身の力を込めた何往復ものぶつかり合いで、ふたりの乳房が赤く脹れ始める。すれ違いざまに時折ぶつかる乳首どうしが、強烈な摩擦感に耐えられず硬く突起していた。
 それでも女王の冠を戴くふたりの覇者は、己のプライドに賭けて一歩も引かない。この勝負は学校の名誉を賭した一騎打ちなのだ。ランキング王者としての責任感と自尊心とが敗北という文字を認めない。
「これでどうっ!」
 勢いよく体を捻った反動を利用し、眞理子が最大の遠心力を込めてJカップを振るう。
 しかし萌美がふと返り討ちをやめて上体を後方にそらした。
(あっ……)
 と思う間もなく、弧を描いて振り回された眞理子の爆乳が空を切った。
 そのままバランスを崩して転びそうになる。
「馬鹿な女!」
 一瞬の隙をついて、萌美が体勢を崩す眞理子に襲い掛かった。
 脹れた乳房を持ち上げてライバルの顔に飛びついたのだ。
 フォレスト女学院の生徒たちが悲鳴を上げた。
 満員電車の人ごみに眞理子が倒れ込んだ。
「いつまでもおっぱいボクシングに付き合うと思ったら大間違いよ!」
「んんむ……ぐむむ……んんっ……!」
 通路を埋める後輩の体に尻餅をつくように、眞理子は体勢を崩している。
 萌美はそんな相手に問答無用で爆乳を押しつけた。
 美人ともてはやされる比べっこ王者の顔が深い谷間で苦しそうに歪む。周りの女子生徒たちは為すすべもなく混乱するだけだった。尊敬する女王がこれほど無残な姿を晒していることが現実とは思えないのだ。
 萌美もなりふり構ってはいられない。制服のスカートからパンツを見せた。太股も足もお尻も全部見せた。
「さっさとギブアップしなさいよっ。あんたなんか四天王の座に居られるほど強くないんだから」
「んんむ……ぐむむ……んんっ……!」
「ほら。早く負けを認めないと死ぬわよ」
 ぐりぐりと乳房を押しつける萌美。その目は負けん気を超えて殺気立っていた。
 眞理子が張りのあるふくらみから逃れようと、必死で顔を背ける。

「眞理子先輩!」
 やがていても立ってもいられなくなったのか、壮絶な闘いを見守っていた女子生徒のひとりが自らブラウスを脱いで加勢しようとした。余裕で平均値を超える巨乳を晒し、真剣な表情で飛びかかろうとしている。
 けれど眞理子は、そんな助太刀を一喝して拒んだ。
「ほっといて! あんたのFカップなんか邪魔なだけよ! これは私とこの女との勝負なんだから、余計な真似はしないで!」
 言葉を失う女子生徒。
フォレスト女学院の生徒たちがどよめいた。
 自分たちが尊敬する女王が、ライバルの谷間を押し退けて立ち上がったのだ。
 ガタン……ゴトン……と、等速で揺れる電車が長いトンネルに入り、萌美をシートに突き飛ばす眞理子の姿が車窓に映った。
 不意の反撃を食らったブレスト女学園のクイーンが座席に座り込んだ。
「圧殺なら私の方が上よ。フォレスト女学院のランキング王者を舐めないで」
「んんむむんぐ……んんむ……んぐむぐ――!」
 圧殺に特化したJカップと車窓とに顔を挟まれ、セミロングの爆乳美少女は声にならない声を上げた。
 のけぞったり顔を背けたりして窒息から逃れようとするが、眞理子の乳房は半端な容積じゃない。萌美の顔面を容赦なく潰し、視界をことごとく奪った。それは男なら幸せな時間でも、プライドを賭けた闘いでは屈辱の時間だった。
 完全アウェイの萌美が、秘めた力を一気に爆発させる。
「こ、こんな圧殺なんて――!」
 きゃあっ! と、再びギャラリーたちが悲鳴を上げた。萌美が眞理子を突き飛ばしたのだ。
 後方に吹っ飛ばされた女王を後輩たちが抱きとめる。
 萌美が眞理子の顔面をまた圧迫し返した。
「んんむ……ぐむむ……んんっ……」
「死んで! お願いだからフォレストの四天王は死んで!」
「んんむ……んむむんぐむむ……んんぐ……」
「私だけが比べっこクイーンなの! 覇道は邪魔しないで!」
「んんむ……んむむんぐむむ……んんぐ……」
 顔中の血管が締め付けられるのが分かり、眞理子は息苦しさに悶えた。本気で死にそうな殺意を感じた。汗ばんだライバルの肌がこれでもかと密着してくる。
 萌美が豊満なJカップで、眞理子の顔ではなく爆乳を圧迫した。
「痛い? 痛いんでしょっ!」
「……っ……た……ぃ」
「聞こえないわよ。はっきり言って」
 けれど眞理子は挫けそうな心をもう一度だけ振り絞り、差し違える覚悟で萌美の爆乳を押し返した。

 全力の潰し合いに巨大なふくらみはひしゃげ、どれだけの圧力が掛かっているか野次馬たちに示す。巨大な餅を重ねて体重をのせれば、おそらく今の光景が再現できるだろう。
 萌美の顔も眞理子の反撃で歪んだ。
「あんたのバストなんか……っ」
 ゆっくりと、しかし確実に眞理子のJカップが萌美を押し退けてゆく。ランキング王者としての尊厳が、後輩や親友たちから送られる期待感に鼓舞されたのだ。
 だが最強のライバルは知略も有している。
「これがとどめよ!」
 フッ……と自ら進んで圧迫を解放すると、また眞理子の顔に飛びかかったのだ。
 張りと弾力のある乳房に視界を閉ざされ、眞理子は再び息ができなくなる。
「んんむ……んむむんぐむむ……んんぐ……」
「あんたなんか簡単に殺せるんだから!」
「んんむ……んむむんぐむむ……んんぐ……!」
「死んで! 『やめてください』って懇願して!」
 さすがに止めを刺すと豪語しただけあって、今度の圧殺にはなんの躊躇もなかった。
 ありったけの力を込めて眞理子の顔面を塞ぎ、ぐいぐいと乳房を押しつけてくる。
 殺人未遂だった。眞理子の呼吸が完全に止まる。
 威厳や尊厳を超越する生への執着が、眞理子を本能的なギブアップに導いた。
「わ、わはっはわよ……あんはのかひあっへば」
 右手で萌美の腰の辺りを叩き、柔道でいう降参の意思を示す。
 萌美が力を抜いて立ち上がった。
「さっさと白旗揚げればこんなに惨めにならなくて済んだのに」
「…………」
 眞理子は睨み返すのがせいぜいだった。野次馬たちが声を失い、静まり返った車両にどこからかすすり泣く声が聞こえ始める。
 床に放られた眞理子のブラジャーを萌美が手に取った。
「これ、戦利品にもらっていくから。今日はせいぜい、その貧弱な胸を晒しながらノーブラで過ごすことね」
 宣告される敗者の罰ゲーム。眞理子は何も言い返すことができない。
 車内アナウンスが流れた。
 現役女子高生の矜持を乗せた電車は、まるで何も知らないかのようにスピードを落とし始めた。

 丹羽眞理子敗北――!
 そんな衝撃的な報せが聖フォレスト女学院高校を駆け巡ってから一週間が過ぎた。
 眞理子はショックを隠しきれなかったが、だからといって学校を欠席することは尚更プライドが許さず、普段通りに通学した。
 廊下ですれ違う親友や後輩の視線はまったく気にならなかった、といえば嘘になるが、眞理子はこれまでと変わらずランキング王者として振る舞い続けた。結城萌美との闘いに敗れたとはいえ、学校での序列は変わっていないからだ。
 けれど眞理子はもはやあの車両には乗れない。まるで猿山を追われたボス猿のように、指定席がある車両へは戻ることはできなかった。
 噂では、眞理子が敗北してからあの車両の客層が変化したらしい。聖ブレスト女学園の生徒が車両を侵食し始めているというのだ。
 自分の責任だ、と眞理子は思う。だがたとえ再戦を申し込んだとしても、結城萌美には勝てないだろう。覇道を目指す心意気が違うのだ。最強のライバルは乳道(ちちどう)の志士だった。比べっこ勝負を通してそれを痛感した。
 結城萌美を倒したいが倒せないジレンマ。その思いに眞理子は苦悶し続けていた。

 エアブレーキの音が響いて電車が止まり、やがてあの車両のドアが開いた。
 眞理子は乗降車する人々を眺めながら、ホームのベンチに座ってそれを見送った。あと一本、いやあと二本遅い電車に乗ってもホームルームにはぎりぎり間に合う。結城萌美と顔を合わせるわけにはいかなかった。
「眞理子先輩」
 ふと声を掛けられて振り向くと、後輩の瀬名香織が立っていた。つい最近、《比べっこ勝利数》と《バストサイズ》で四天王に仲間入りした、Iカップの転校生だ。すでに王位継承者の有力候補に名前が挙げられている。
「香織か。おはよ」
「おはようございます」
 ふたりの間に意味深な沈黙が流れる。眞理子が敗北したことは香織も承知していた。走り去ってゆく電車に乗れない理由も充分に承知していた。
「結城萌美、いつもは次の電車に乗るんだそうです」
「え?」
「ブレスト学園にいる友達から聞きました。眞理子先輩と闘った時は、生徒会の仕事か何かで、偶然、一本だけ早い電車に乗ってたんだそうです」
突然、何を言い出すのだろう。今更あの日の勝負を話題にしたところで、何かが変わるわけではないのだ。
「だから今日は、次の電車に乗ればあの女に会えます」
「香織……?」
 後輩の言葉の意味がわからず、眞理子はIカップの後輩を見上げた。
 ブラウスから透けていたのは、後輩が勝負下着にしている黒いブラジャー。
 瀬名香織がふとつぶやく。
「眞理子先輩の仇(かたき)、私が取ってきます」
 刹那、その言葉に眞理子の心が震えた。目の前の後輩を頼もしいと感じた。
「ごめん……香織」
 無意識のうちに熱いものがこみ上げる。眞理子は唇を噛んで俯いた。

 ……エアブレーキの音が響いて電車が止まり、構内アナウンスと同時に車両のドアが開く。結城萌美が乗る車両は、すでに香織の知るところだった。
「じゃあ学校で待ってます。あの女のブラを戦利品に」
 戦闘態勢を整えた香織が、敬愛する女王に微笑んでから車両に乗り込んでいった。
 眞理子はベンチに座ったままその後ろ姿を見送った。
 ありがとう、と心のなかでつぶやきながら――。


                       『矜持衝突 改訂版』了

 ※引き続き続編『矜持衝突 そして伝説へ……』をお楽しみください。

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『矜持衝突 そして伝説へ……』 小説  Angel Heart  - 21/6/9(水) 14:43 -

    妄想寄稿『矜持衝突 そして伝説へ……』(前編)

 改札口へ続くエスカレーターに乗ると、瀬名香織は友人から届いたLINEを読み返した。夏服のブラウスを盛り上げる爆乳と透けている黒いブラジャー、それに膝上数十センチにまで上げられたスカートを見れば、誰だって盗撮したくなるだろう。けれど香織はそんな疚(やま)しい企みすら失せさせるほど殺気を漂わせていた。

 既読>萌美先輩なら8時2分の電車に乗るよ。いつも三両目。けどなんで?
 既読>7時47分じゃなくて?
 既読>その電車に乗ったのは生徒会の仕事があったからみたい。あ……。
 既読>ごめん、私、先輩の仇はとらないといけないから。

 友人から届いた返信には知りたい情報がコンパクトに詰め込まれていた。結城萌美は8時2分発の電車の、しかも三両目に乗り込む。吉良上野介がいつ茶会を開くか知ったような、敵討ちのための絶対情報だった。
 ……香織の尊敬する丹羽眞理子が結城萌美に乳比べで負けたのは一週間前のことだ。転校生である自分を快く受け入れ、乳道(ちちどう)の志士としてのポテンシャルを見出してくれたことに香織は心から感謝していた。前の学校では「Iカップだからって調子に乗ってさ……」と理不尽な迫害に遭ってばかりいたのだから。
 眞理子が敗北したのは、香織には自分のことのように衝撃だった。絶対に負けない、《乳比べクイーン》の座に居続けるだろうと信じていた先輩が惨めな結末を迎えたのだ。結城萌美に圧死寸前まで追い込まれ、ブラジャーを戦利品に獲られたという。車両の占有率が聖フォレスト女学院から聖ブレスト女学園に移ったのもそのせいだと言われる。
 けれど香織は現状に甘んじるつもりはなかった。敬愛する先輩の仇を取り、再び車輌の占有率を母校に戻すつもりだ。それが、自分の存在価値を認めてくれた先輩への恩返しだと思うから。

「眞理子先輩」
 ホームでひとりぽつねんと佇む先輩に香織は声をかけた。
「香織か。おはよ」
「おはようございます」
 ふたりの間に意味深な沈黙が流れる。女子高生であふれる電車が走り去ってゆくが、それに眞理子が乗れない心理は、香織は痛いほど承知していた。
「結城萌美、いつもは次の電車に乗るんだそうです」
「え?」
「ブレスト女学園にいる友達から聞きました。眞理子先輩と闘った時は、生徒会の仕事か何かで、偶然、一本だけ早い電車に乗ってたんだそうです」
 突然、何を言いだすのだろう。そんな怪訝そうな表情が眞理子に浮かんだ。
「だから今日は、次の電車に乗ればあの女に会えます」
「香織……?」
「眞理子先輩の仇、私が取ってきます」
 途端、敬愛する女王の唇が震えた。滲む涙をごまかすように俯いた。
「ごめん……香織」
「そんな情けない顔しないでくださいよ。眞理子先輩はもっと堂々としてなくちゃ」
 茶化すような言葉でふたりの間に笑みが戻り、他愛のない会話が続いた。
 やがて8時2分発の電車がホームに滑り込んでくる。
「じゃあ学校で待ってます。あの女のブラを戦利品に」
 戦闘態勢を整えた香織が眞理子に微笑んだ。
 ありがとう、と大好きな先輩がささやいたように思えた。

 香織が電車に乗り込んだ途端、三両目の空気が一瞬で重くなった。
(……何こいつ?)
(ここ聖ブレスト女学園専用の車輌なんだけど?)
(ひょっとして萌美先輩に勝負挑むつもりとか……?)
 満員の車輌が白眼視に満ちる。かろうじて乗車できた聖フォレスト女学院の生徒たちは居心地が悪そうに身を縮めていた。
 進路をわざとふさいできた女子生徒に向かい、香織は鋭い眼光を放った。
「どいて」
「あんた丹羽眞理子の後輩でしょ? 知ってるわよ」
「雑魚に用はないの。私が会いたいのは結城萌美だけ」
「きゃあ」
 一瞬でIカップで突き倒し、女子生徒を転倒させる。貧乳が爆乳に勝てるわけがない。
「静かにしなさい。私たちが占有率を占めてるからって、ここは公共の場所なの。ちゃんとルールは守って。じゃないと聖ブレスト女学園の品位が落ちるでしょう」
 気品ある口調でたしなめたのは他ならぬ結城萌美だった。
「あんたが結城萌美ね」
 四人掛けのシートに結城萌美は座っていた。彼女を警護するように三人の女子生徒が腰掛けている。もちろん全員が聖ブレスト女学園の生徒だ。
 ベルが鳴り、電車がゆっくりと走りだした。
「そうだけど、あなた誰?」
「私は瀬名香織。眞理子先輩の後輩よ」
「眞理子? ああ、あのJカップの面汚しか」
 クスクスと周囲に嘲笑がもれる。
「先輩の敵討ちにきたの。私と勝負して」
「今日は闘う気ゼロなんだよね……百年経ったらまた来てよ」
 ゼミロングの髪をいじりながら結城萌美が言った。
「怖いのね。自分より貧乳に負けるのが」
「怖いっていうかただ面倒くさいだけ。『先輩のために闘います!』とか安っぽい忠誠心見せないでくれる? 古くさい仇討ちドラマはあさってでやって」
 しっしと手を振られ、香織の憤慨ゲージが跳ねあがった。いったい、この女をどう挑発すれば乳比べに持ち込めるのか。

「ところで……ぺちゃパイ連中を警護に従えてるなんて随分なご身分ね」
 香織は攻撃の矛先を変えた。萌美より自制心のない取り巻き連中が色めき立つ。
「今何て言った?」
「だからぺちゃパイだって言ったの。聞こえなかったなら何度でも言ってあげるわ。ぺちゃパイ、ぺちゃパイ、このぺちゃパイ」
 ショートヘアの、負けん気が強そうな女子生徒が立ち上がった。結城萌美を警護する役割ゆえ、彼女たちもそれなりに巨乳だ。ぺちゃパイと罵られて自尊心が傷ついたらしい。
「あんたなんか萌美さんが相手するまでもないわ。私が屠(ほふ)ってあげるから掛かってきなさいよ。どうせ私と同じGカップ程度でしょ」
「真緒。落ち着きなさい。その女はIカップよ。ブラウス越しに見てわかるでしょう」
「あ、Iカップ……」
 真緒と呼ばれた生徒が怯んだ。
「どうするの? 威勢よく吠えた手前、まさか不戦敗なんて無様な真似しないでしょうね。私こそあんたを屠ってやるから勝負しなさいよ。結城萌美と闘う前のいいウォーミングアップになるわ」
 一触即発の空気に車輌が沈黙する。
 ……ガタン、ゴトンと速度を増していく電車の中で、人混みを掻きわけてきた女子生徒がいた。真っ白なブラウスにギンガムチェックのミニスカート――聖フォレスト女学院高校の生徒だ。果し合いの空気を察知して駆けつけたらしい。
「香織。雑魚は私にまかせて。あんたは結城萌美との勝負だけに集中して」
「彩世先輩」
 眞理子の腹心であり同校《乳比べ四天王》のひとりである葛西彩世だった。
「葛西彩世……!」
 結城萌美の表情が一変した。その存在に一目置いていたらしい。
「乳道の志士として正式にお願いするわ。私があんたの取り巻き連中に勝ったなら、正々堂々と香織の挑戦を受けてあげて。仇討ちは誰にも邪魔する権利はない――それが乳道のルールよね」
「言わずもがなよ。葛西彩世の嘆願、確かに聞き届けたわ」

「まずはこのショートヘアのお嬢さんで、次にそこのちょいぽちゃ警護官さん。そのあとでEカップさんを葬る感じかしら」
 余裕綽々のていで彩世が微笑んだ。
「そう上手く運べばいいけどね……ハ!」
 真緒がいきなりブラウスを脱ぎ、ブラジャーを取り去って美巨乳をさらした。戦力の逐次投入ではなく最初から全軍を送るつもりだ。
 戦術的には正しいが戦法的に間違っている。ブラウスとブラジャーを脱いだせいで防御力がさがるのだ。そのミスを衝いて彩世がおっぱい相撲に持ち込んだ。
「馬鹿な女」
 ……何してるのもう、と萌美も呆れ顔だ。
 彩世のGカップと真緒のGカップが正面からぶつかりあう。彩世のバストが強靭な張りを有しているのに対し、真緒のそれはスライムのような柔軟性を有していた。ビキニ痕がくっきりと残っている。
「警護官さんの力ってこの程度なの? 大言壮語を吐いてた割に貧弱なのね。もう潰されちゃってるじゃない」
「受け止めてるだけよ。そんなこともわかんないの?」
 確かに真緒は攻撃を受け止めていたが、いかんせん乳道の練度に差がありすぎた。彩世がぐいぐいと押し込むと真緒の両乳房がぺちゃんこに潰されたのだ。今にもパンクしそうなほどに。
 しかたなく真緒が戦法を変えた。彩世とがっちり両手を組んで腕力に訴えたのだ。手四つなら多少の自信があった。相手を組み伏せてしまえば劣勢を挽回できる。
 ……はずだったが。
「素人ね。乳比べの手四つはこうするのよ」
 組まれた手を彩世が左右に大きく広げた。途端、ふたつのGカップが再びぶつかりあい、おっぱい相撲が再開される。腕力を誇示しあうプロレスとは違い、乳比べではおっぱいどうしがぶつかることが前提なのだ。真緒はそれを失念していた。
「早くギブアップしなさい。本気で潰すわよ」
 ぐりぐりとGカップが押しつけられ、真緒の乳房が左右に振られる。張りの強い圧迫にスライム乳が悲鳴をあげた。激痛が走り、恥辱まみれで乳首が立つ。あっという間に戦意が喪失していった。
「わ、わかったわよ。私の負けだってば」
「口ほどにもない。頼もしい警護官がついてて羨ましいわね、結城萌美」
 キッと結城萌美の美貌が引き攣った。

 緒戦からの実力差に三両目が静まり返る。葛西彩世はブラウスを脱ぐことすらなく、結城萌美の側近を屠ったのだ。この女に勝てるんだろうか……萌美先輩はひょっとして勝負するはめになるの? そんな不穏な空気が広がる。戦利品として奪われるべき真緒のブラジャーも、彩世から返品されたことでなおさら屈辱をあおられた。真緒がそそくさとブラジャーを着け直し、萌美に頭をさげる姿が痛々しい。
「次はちょいぽちゃ警護官さんの番よね?」
 ぶんぶんとかぶりを振り、ちょいぽちゃ警護官が不戦敗の意思を示す。真緒との闘いを見て勝てる気がしなくなったのだろう。
「Eカップさんは?」
 ――無言。矜持を示すべきか現実を受け入れるべきか悩んでいるのだ。
「情けない」
 つぶやいたのは結城萌美だった。流れてゆく車窓の景色を眺めている。
「約束よ。あんたの取り巻き連中に勝ったんだから香織の挑戦を受けてあげて」
「望むところだわ。このまま退散するわけにもいかないし。返り討ちにしてあげる」
 結城萌美がスッと立ち上がるとギャラリーが後ずさった。決闘の開始を報せるLINEが飛び交い、三両目が戦場と化す。肩身の狭い思いをしていた聖フォレスト女学院高校の生徒たちがほくそ笑んで、香織の勝利を祈った。
「……全力で闘っても勝てないかもしれないわよ、あの女」
「わかってます。けど眞理子先輩のためなら討死にするのも本望ですから」
「頑張って。邪魔する奴らは私が牽制してる」
 すれ違いざまにささやき合うと、香織と彩世は臨戦態勢をあらたにした。香織は結城萌美と矜持をぶつけ合うために、彩世は邪魔する連中を威嚇するために。

 ……電車が次の駅に到着し、乗降後に再び走り始めると間もなく、敗けられない闘いの火蓋が切って落とされた。
「聖フォレスト女学院高校、瀬名香織。結城萌美にあらためて挑戦状をたたきつけます。あなたの下着(みしるし)を頂戴して、敬愛する丹羽眞理子先輩の慰めとするために」
「敵討ちの挑戦状、確かに承ったわ。乳道の志士として正々堂々と勝負しましょう。くだらない先輩愛がどれだけ惨めか教えてあげる」
 結城萌美は余裕をたたえていた。挑発するような言葉を述べながら緻密な戦術思考を回転させている。香織をどう斃すか計算しているのだ。生半可な覚悟で萌美に勝負を挑んだとしたら、その殺気だけで降参してしまうだろう。
 ――けれど香織にもプランがあった。結城萌美の戦歴を分析した結果だ。萌美は胸をなじられることに弱く、また一気に形勢を有利にしようとする傾向がある。つまり理性的ではなく感情に流されやすいのだ。その点を衝けば充分に勝てる目算があった。結城萌美は、瀬名香織などという無名の志士の戦歴など分析していないだろうから。
「97センチのIカップ」
「98センチのJカップ」
 たがいにバストサイズを宣告する。卑怯な真似はしないという、いわば武士どうしの名乗りあいだ。アンダーの差でカップサイズに違いはあるものの、香織と萌美のバストはほぼ互角といってよかった。

「先輩思いの後輩さんはどんな闘いがお望みなのかしら? おっぱい相撲? おっぱいボクシング? それともキャットファイト? リクエストに応えてあげるからなんでも言ってごらんなさい」
 両腕を組んだ結城萌美は上から目線だ。胸の谷間が圧巻だった。
「ブラジャー交換を。名だたる結城萌美の下着を試着できれば乳道の志士としてこれ以上の栄誉はないわ。ひきちぎって戦利品にしてあげる」
「一回戦としてはまあ妥当ね。……いいわ、着けさせてあげる」
《ブラジャー交換》は主にふたつの目的でおこなわれる。対戦者どうしのバストサイズが互角の場合、相手のブラジャーを先に破壊して優勢を勝ち取る目的がひとつ。
 逆に対戦者どうしのバストサイズに差がある場合、巨乳のほうが貧乳を嘲ってプライドを打ち砕く意図がある。nao≠ネる先駆者が考案した勝負方法と言われているが、詳細は乳道戦士のあいだでも不明だ。

 当然、今回は互角の者どうしの交換戦。Iカップ対Jカップなので、どちらが先にホックを弾き飛ばしてもその迫力は壮絶になるだろう。
 たがいに相手を睨みつつ夏服を脱いでゆく。ブラウスが脱ぎ捨てられてあらわになる黒いブラジャーと花柄のブラジャー。どちらもメロン級の大きさだ。ギャラリーの間から羨望のため息がもれる。不運にも居合わせてしまったOLも言葉を失っていた。
 ふたりが躊躇なくブラジャーを取り去っていく。
「Angel Heartブランドのオーダーメイドブラよ」
「奇遇ね。私も今日はAngel Heartブランドなの」
 Iカップ以上ともなると既製品に理想のデザインを探すのは難しいのだろう。香織も萌美も特注のブラジャーを身に着けていた。それはすなわち、自分のバスト以外にフィットしない下着を交換しあうということ。
「ふうん……これがあなたの勝負下着ね」
 受け取った香織の黒ブラを蔑むように眺め、萌美が早速試着しはじめた。
 ストラップに腕を通して乳房をカップで包み、後ろ手で三段ホックを留める。萌美のバストは柔らかさと弾力性が絶妙に釣りあったふくらみだ。若さを誇るようにU字型に発育している。乳房をもう一度カップに押し込んだのはポジションを整えるためだろうか、それとも窮屈さをアピールするためだろうか。
「着け心地は悪くないわね。地味で女子高生っぽくないけど」
「あなたのはかわいいわ」
 香織も試着した。まず三段ホックを正面で留めてぐるりと半回転させる。それからストラップに腕を通してカップに乳房を収めた。収納とポジション調整を同時におこなうのでどうしても前屈みになる。ロケット型のIカップが豪快にたわんでいた。
「ちょっときついけど」
 香織のIカップは斜め上に突きだしている。萌美のブラを自然と押し破る恰好だ。勝てるかもしれない――香織は思った。
 けれど結城萌美も負けてはいない。柔軟性のある乳房が香織のブラジャーに適応し、カップを埋め尽くしているのだ。弾力性にも物を言わせてひきちぎりに掛かっている。
(さすがね)
 ブラジャー交換だけで勝敗が決するとは思っていない。香織も渾身の力を込めてホックを弾き飛ばしにかかった。めりめりと生地が悲鳴をあげ、留め金が疲労しはじめる。ギャラリーが息を呑んだ。ばちんっ、とここでブラを破壊できれば理想的なのだけれど。

 ……やがて一分ほど交換戦を繰り広げた末、どちらからともなく引き分けを認めた。
「よく耐えたじゃない、あなたの勝負下着。一応、褒めてあげる」
 予想外と言わんばかりに萌美が肩を竦めた。
「あなたのブラこそ頑丈よ……と言いたいところだけど、これ戦利品にもらっていくつもりだから借りたままでいいかしら?」
「言ってれば? 最後に泣きを見るのはあんたのほうよ」
「私が嗤(わら)う結末なんだけど」
 おもむろに、香織が結城萌美のバストを鷲掴んだ。萌美も負けじと掴み返す。《揉みつぶし対決》だ。ただひたすらに揉みまくって相手の降参を迫る。愛撫ではないのでもちろん遠慮がない。まるで相手の乳房が握力計でもあるかのように。
「……スライム系のおっぱいね。思ってた以上に重たいわ」
 萌美が香織のバストを揉みくちゃにする。
「あんたのは弾力が強いのね。垂れさがってもいないし」
「乳道の神様に愛されてる徴(しるし)なの。身の程知らずの肉塊とはわけが違うわ」
「そういう割には手が辛そうだけど? 腱鞘炎になる前にギブアップしたら?」
 香織の乳房には果てしない重量感がある。鷲掴む萌美の手がそれゆえ難儀を強いられていた。どんなに力いっぱい揉みくちゃにしても、Iカップが変幻自在に形を変え攻撃を受け止めるのだ。重圧が萌美の手首にかかって疲労感が蓄積していく。
「ふざけないで」
 萌美が最大限の握力で揉みつぶした。
(……っ!)
「痛いの? 痛いなら素直に叫べばいい。不遜な挑戦には目を瞑ってあげる」
「冗談じゃない!」
 香織も握り返した。
 容赦のないつぶし合いにブラジャーが上へとずれていく。次のラウンドへと自然に移行させたのだ。ふたつの爆乳がこぼれ出て直接の握り合いになった。
 ギャラリーの何人かがスマートフォンで撮影していた。ストリーミング中継で動画サイトにアップしているのだ。狭い車輌での闘いが、全国の乳道戦士たちもが固唾を呑む勝負と変わっていた。

                            (後編に続く)

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『矜持衝突 そして伝説へ……』 小説  Angel Heart  - 21/6/9(水) 15:02 -

     妄想寄稿『矜持衝突 そして伝説へ……』(後編)


 ――生乳の掴み合い。ブラジャーの防御効果がなくなったぶん、攻撃がストレートに伝わる。間違っても「痛い」とは叫べないし、迂闊に感じることもできない。悶えても劣勢にカウントされるのだ。相手の攻撃に屈した、と認定されて。
「後輩さんの乳首は我慢強いのかしら?」
 萌美が揉みつぶすのをやめ、香織の両乳首を指先で摘んだ。
 香織がせせら笑って摘み返した。
「自分から不得意な戦法に持ち込むなんて愚かね。乳首が弱点だって眞理子先輩から聞いてるわよ。《乳首合わせ》で先に突起させちゃったんでしょう?」
「愚かなのはあんたのほうよ。この一週間、私が暢気(のんき)に過ごしていたと思ったら大間違い。本物の乳道戦士はね、常に鍛錬を怠らないの。自分の弱点に気づいたらそれを克服する。当然よね、じゃないと覇道を歩めないんだもの」
 眞理子に勝利したのちも、萌美は安穏とすることなく鍛錬を続けていた。女子大生になったかつての先輩――聖ブレスト女学園高校の旧乳道戦士たち――に再入門し、乳首の忍耐力強化に努めたのだ。たった一週間のトレーニングで萌美の乳首は見る間にポテンシャルを開花させていた。眞理子に蹂躙された経験が相当屈辱だったのだ。
 実際、乳首の摘みあいで先に突起させはじめたのは香織だった。
「……そんな」
「哺乳瓶みたいに立ってきたわよ。こうすると声が出ちゃうんじゃない?」
 香織の乳首を摘んでくりくりと刺激し、萌美が指先で弾く。仇相手の攻撃に香織は思わず両脇を締めてしまっていた。細かい電流が背筋を走り抜ける。たまらず吐息をもらして先制を許してしまった。中継を見守る同胞たちも萌美の有効を認めただろう。

 だが香織も白旗を揚げない。お返しに何倍もの恨みを込めて、萌美の乳首を引っ張った。風船の口を伸ばすみたいに何度も何度も引っ張られてはさすがのJカップもひとたまりがなく……と思いきや、萌美は乳首に微塵の変化も見せず平然としている。
「その程度の乳首責めなんて童貞の愛撫くらい無意味なの」
 逆に香織の乳首を引っ張った。Iカップが無残にも乳首を最大突起させた。
(これは……計算外)
 ――再びの有効。萌美がリードを広げた。
 香織は焦りつつもしかし思考を巡らせた。結城萌美からポイントを取り返すには――。
 そう、おっぱいをなじればいい。結城萌美は胸を罵られると理性を失う。
「彼氏の愛撫にも鈍感になってたりして。鍛えすぎて乳比べに特化しちゃったのよ。彼氏がかわいそう。あんたの乳首を愛撫しても感じてもらえないんだもの」
「うるさいわね。男と寝る時は女に戻れるわよ!」
 思ったとおり、萌美の美顔がカッと引き攣った。
「その口振りだと彼氏がいないみたいね。巨乳美人ともてはやされる結城萌美がまさかフリーだなんて。そういえば眞理子先輩と闘った時も、男の子がどうとか友達と話してたんでしょう? 乳比べ専用おっぱいには興味ないってフラれたの?」
「フラれてなんかないわよ。こっちからお断りしたの。私のJカップに触れるのはそれなりの男だけなんだから」
「男の選り好みを後悔するのね。今日ここで、あんたは惨敗して負け犬になるの。身分華やかりしうちに彼氏をつくっておけばよかったって、自分を責めればいいわ」
「足し算わかる? 私が、今二回有効を獲って優勢なの。てことはこのままいけば勝つのは私。惨敗の恥辱を味わうのはあんたのほうよ」
「このままいけば、でしょ。このままいかないから安心して。元乳比べ女王さん」
 萌美を侮辱すると、香織は乳首攻撃を振り払って、交換したブラジャーを脱いだ。萌美もそれに倣う。
 乳比べには、柔道のように一本勝ちとか、技あり二回でそうカウントされるとかいったルールはない。むしろそれ以上に厳格だ。ただひたすらに相手の降参を迫るのだから。All or Nothing――それが、矜持を衝突させる女どうしの掟だ。

 再度の乳首攻撃を狙う萌美。それを牽制する香織。
 レスリングの間合い取りに似た睨みあいは、やがて阿吽の呼吸で手四つへと変わった。一気に形勢を有利にしようとした萌美が襲いかかったのだ。
 けれどそれは香織の想定するところだった。女王と挑戦者の両手ががっちりと組まれた。
「私の手四つは彩世先輩の直伝。簡単におっぱい相撲に持ち込ませないわ」
「それは羨ましいことね」
「その前にあんたの手首が悲鳴をあげる。やめてくださいって、懇願するのよ」
「やれるもんならやってみなさいよ。腕力で勝利しても乳道ではなんの自慢にもならないの。口先だけのスライム女なんかに負けないわ」
 ふたりが般若の形相で額をもぶつけあわせた時、電車が速度を緩めて次の駅に到着した。鬼気迫る女子高生どうしの闘いに女子大生やOLが逃げるように降車していく。しかし自尊心を賭けるふたりは気づかなかった。

「他の車輌に乗ってください」
 乗車しようとしてくる客を、彩世たち数人の生徒が阻止する。通報等で勝負の邪魔をさせたくなかったのだ。「満員なので」という口実に大半の客が不平をもらしたが、列に並んでいたとある女性の説得で不承不承、他の車輌に移動した。
 乗客に移動をうながしたのは爆乳の美魔女だった。彩世は、彼女が旧乳道戦士だと直感した。車輌に漂う空気が勝負中のそれだと美魔女は感知したのだろう。一瞬のアイコンタクトだった。
 ……ベルが鳴り、ドアが閉まって電車が走りだす。
 後ろに流れてゆくプラットフォームを眺めながら、彩世は美魔女に会釈した。他の乗客を誘導してくれたとは。乗車を遠慮してくれたなんて。
 頑張れ後輩――と、両胸を指しながら口パクする美魔女の姿に、彩世は乳道精神の気高さを感じた。それは連綿と受け継がれているのだ。

 乳比べクイーンと挑戦者はしかし異質の気高さを対峙させていた。額を擦りあわせつつ腕力を競っていたのだ。左右に腕を広げようとする相手の攻撃を防ぎつつ、自分に優位な体勢でおっぱい相撲に持ち込もうとする。押しては押し返され、押されては押し返すという小康状態に陥っていた。重力でたわんだIカップとJカップが、電車の加速にしたがって揺れまくる。
 やがて手汗を嫌った萌美が手を組み直そうとした一瞬の隙を衝いて、香織が額を離し、一気呵成に両腕を広げた。「くっ……」とうめき声をもらす結城萌美。あっという間にふたつの爆乳が重なり合った。
「腕力勝利が自慢にならないならあんたの胸に降参を迫るだけよ」
「スライム乳に何ができるっていうの……! 無様にひしゃげて終わりでしょ!」
 先手を取られた乳比べ女王はすぐさま冷静さを取り戻した。香織がぐいぐいと押し込むと萌美も負けじと胸を張った。正面からぶつかり合うふくらみは作用反作用の法則にしたがい、潰れまくる。まるで搗きたての鏡餅をくっつけ合ったみたいに。

 ふたりが上半身を左右に振った。それはメトロノームがテンポを上げていくように、小刻みな擦りあい揺らしあいへ、揺らしあいから震度六強へと発展していった。がっぷりよつで潰しあう爆乳はパンク寸前。乳首が隠れてしまって見えない。
 ほんとに破裂するんじゃ、とギャラリーが心配した時、香織が大きく身体を振ってJカップに一撃くらわせた。
「眞理子先輩の仇!」
 ――ばちぃぃぃん!
「その程度なのっ!?」
 ――バチイィン!
《おっぱいボクシング》は迫力満点だった。兇器同然のふくらみがひっ叩きあうのだ。運動エネルギーの凄まじさを物語るように乾いた音が響き渡る。矜持を衝突させる乳道戦士たちの乳房が赤く腫れはじめた。
「この程度の力で女王なんてお笑い草ね!」
「やせ我慢してないで早く降参しなさいよっ」
 ――ばちぃぃぃん! バチィィン!
 何度も往復する乳房。渾身の力を込めて振るわれるため、すれ違いざまにぶつかり合う乳首が取れそうだった。素人目には互角だが、中継を見守る乳道戦士たちは香織の有効を認めていた。結城萌美の乳首が立っていたのだ。あんなに頑強だった乳首が。
 最後の一撃とばかりにスイングした両者の乳房が派手な音を立てた。痺れていたところに大打撃をくらって香織の顔が歪む。萌美も激痛をこらえるように前かがみになった。

 だが不屈の闘志で睨みあう挑戦者と女王。再びおっぱい相撲の気配を察知した香織が胸を張ると、萌美が手四つせずJカップを突進させてきた。
(な……)
 そう思った時には後ろによろめいていた。悲鳴を上げるギャラリーの支えもむなしく、香織は仰向けに倒れ込んだ。
「じれったいから決着(ケリ)をつけてあげる」
 萌美が香織に覆い被さってJカップを顔面に押しつけた。空いた手では抵抗されぬよう、香織の両手首を万歳させた格好で押さえつける。乳道の寝技《縦乳四方固め》だ。足をバタつかせる香織も、四つん這いで降参を迫る萌美もパンティ全開だが色気は微塵もない。
「んむぐぐぐっ……! ひひょうおっ」
「なにが卑怯なのよ。躱せなかったあんたが無能なだけでしょ? さあ早く降参しなさいよ。『私が疎かでした』って土下座して」
 香織は懸命にもがいたが女王の寝技は練度が高すぎた。逃れようと顔を背けても、それに合わせてJカップを移動させてくる。息苦しさにもがけばもがくほど体力を奪われた。結城萌美のバストは圧殺も得意らしい。
「そのまま勝ってください!」
「絞め落として!」
 女王の優勢を悟ったギャラリーが声援を送る。それが余計、香織のメンタルを殺いだ。
(負けない……眞理子先輩に絶対に戦利品を渡すんだから!)
 それでも戦意喪失しないのは、尊敬する先輩の顔が思い浮かんだからだった。乳道の世界に導いてくれた恩人。敗北の屈辱を味わって失意にある先輩。そんな憧れの人に自分まで惨めな結果を報告すれば、どれだけ落胆されることか。「香織は頑張ったよ。ありがと」と優しくねぎらわれるのが嫌だった。先輩にまた笑ってもらうために、この程度の寝技で降参するわけにはいかない。討死にするなら結城萌美と刺し違えてでも――。

 殺人未遂寸前の縦乳四方固めの中で、香織は空気を求めるかわりに、結城萌美の乳首に喰らいついた。そしてありったけの力を込めて引っ張り吸う。真空パックするみたいに。
「無駄なっ……抵抗を……くっ――」
 痛っ、とつぶやいて萌美が圧迫を緩めた瞬間、香織は手首の拘束を振りほどいて萌美を突き飛ばした。
 今度は萌美が仰向けに倒れる。ギャラリーの何人かが巻き込まれて転倒した。香織はすぐさま立ち上がって女王に襲いかかった。美麗な顔に、横からIカップを押しつけて片足を持ち上げたのだ。プロレスでいえばカウントをうながす恰好。乳道にはスリーカウント制などないけれど。
「眞理子先輩にあんたのブラを持ち帰るって約束したの。降参するのはあんたのほう」
「ぐむむんぐぐ……んむぐふ!」
 形勢が逆転して萌美がもがき始める。パンツ丸見えだ。ブラと同じ花柄のショーツどころか、お尻の割れ目もわずかに覗いている。香織も萌美も髪を振り乱していた。
「負けましたって叫んで! 眞理子先輩に非礼を詫びて!」
「結城先輩!」
 と聖ブレスト女学園の生徒がひとり、いつの間にか上半身裸になっていた。女王の敗戦を見たくないばかりに加勢を買って出たのだろう。Cカップ程度のバストだ。
「勝負の邪魔は許さない。私が相手するから掛かってこい」
 彩世が女子生徒の前に立ちはだかった。本気で阻止するつもりなのは行動を見ればわかる。たかがCカップ相手に服を脱いだのだ。警護官相手ですら着衣だったのに。
 彩世の巨乳に一瞬怯んだ女子生徒だったが、萌美への忠誠心を優先させて、無謀にも彩世に突進していった。平均的なバストを持ち上げて。
 勝敗はあっという間についた。彩世が突進を真正面から受け止めて、女子生徒を抱き締めたのだ。そしてGカップを押しつけると弄ぶようにおっぱい相撲の真似をした。女子生徒は瞬殺されて泣きべそをかいた。
「勇気は認めるがルールは守れ。結城萌美も喜ばない」
 彩世が身体を離すと女子生徒が小さくうなずいた。

 無謀な挑戦者がブラを着け直し終わった頃、戦況はあらたな局面を迎えていた。香織のホールドを跳ね返した萌美が、再び尻餅をついた香織に飛び掛かったのだ。
 が、今度は仰向けの態勢を免れた香織。押し倒そうとする女王の攻撃を防ぐべく両手を暴れさせていた。窮鼠と猫の喧嘩みたいだった。
 また手四つを組ませると萌美が力任せに香織を押し倒し、身体を香織の頭部へと移動させた。自然、香織の両手が捻じられる恰好になる。関節の悲鳴に耐えているところに萌美の身体がのしかかってきた。《上乳四方固め》だ。
「もう許さない。逮捕されてもいいからあんたを窒息死させる。尊敬されるこの私に恥ずかしい姿をさせたんだもの、その罪は万死に値するわ」
「やれるものならやっへみなはいよ」
「死んで! ここで無様に死んで!」
 恨みのこもった攻撃は容赦がなかった。乳首を吸い返す余裕もない。
 だがさっきの縦乳四方固めより足が自由だった。香織は半端なシックスナイン状態で両足をバタつかせた。そして起死回生の反撃に出る。もし失敗すれば窒息するしかない。気絶して惨めな姿をさらすだろう。敵だらけのギャラリーの嘲笑にまみれて。

 なんとか萌美の背中に両手を回すと、香織は床を踏ん張り、ブリッジする体勢に持ち込んだ。必死でそり返ってチャンスを探る。だが女王の押さえ込みは強固だった。何度も足が滑っては仰向けに戻される。酸素が不足して意識が遠のいてきた。
(眞理子さんのために……こんな女なんかに……絶対に……負けないんだから!)
 最後の余力を振り絞って香織は抵抗した。身体が浮き上がって女王が焦る。必死で抑え込もうとするが反撃力のほうが強かった。均衡が破れて固め技が崩れる。
 香織はもんどりうって横転した萌美の上半身に馬乗りになった。そして渾身の力を込めてJカップを掴みつぶす。破裂させる覚悟だった。
「痛いんでしょ!? やめてほしかったら負けを認めて! 眞理子先輩に謝って!」
 鬼すら震える形相だった。
「なによ……こんな揉みつぶしくらい……なんでも、ない……」
「じゃあ殺してあげる。友達の前で負け犬になることね」
 香織が縦乳四方固めをやり返した。Iカップのスライム乳を押しつけて息の根を止めにかかる。全力の揉みつぶしでダメージを受けた萌美には反撃する気力がなかった。
「ま、参ったってば……わかったわよ。あんたの忠誠心が本物だって認める」
 結城萌美が香織の背中をたたいて負けを認めた。
 ギャラリーの何人かがすすり泣き始めた。

               ***

……発車を知らせるベルが鳴り響くと間もなく、扉が閉まって電車が走りだした。ゆっくりと加速していく車輌と相対するように窓外の景色が流れていく。吊革に掴まる生徒たちが揺れる。中吊り広告が宣伝するようになびいた。
 香織が結城萌美との死闘に勝利した翌日、女性専用車輌は再び聖フォレスト女学院高校が占有するところとなっていた。OLや聖ブレスト女学園高校の生徒もまじってはいるが、ほとんどが聖フォレスト女学院高校の生徒だ。勝負結果がSNSで拡散し、暗黙の席替えが起こったのだろう。

「なに考えてるの?」
 再び指定席に座れることになった眞理子が訊いた。いや、正確にはかつての指定席ではなく新たな四人掛けのシートだ。眞理子を警護するように香織、彩世、そしてもうひとりの《乳比べ四天王》である絵梨奈が座っている。
「結城さんに勝利したらちょっと虚しくなっちゃって。勝ってよかったのかなって」
 香織は窓外を眺めた。
「それは乳道戦士のポテンシャルが有り余ってる証拠よ。香織はもっと強くなりたいの。強敵と闘い続けて経験値を積んで、自分の実力を限界まで成長させたい。虚しさを感じるのは結城さんレベルを卒業したせい」
「なんかスーパーサ○ヤ人みたいですね」
 香織が物憂げに微笑んだ時、車輌がざわついた。見れば、その結城萌美がたったひとりで近づいてくる。再リベンジか、と車内が緊張した。

「結城萌美……」
 眞理子がつぶやくと萌美が両手でバツ印をつくった。不戦の意思表示だ。
「今日は闘いに来たんじゃないの。これを眞理子さんに渡したくて」
 敬称のある呼び名に全員が違和感を覚えた。萌美が手渡したのはブランドショップの紙袋だった。
「なにこれ?」
「勝負した時その……眞理子さんのブラジャーを乱暴に扱っちゃったから弁償しようかと思って――。デザインは気に入らないかもしれないけどサイズは同じだし……あの、乳道戦士どうしの仲直りっていうか」
 萌美が照れたようにそっぽを向いた。
 眞理子が包みを開けてみるとそこにはAngel Heartブランドのブラジャーが入っていた。J65。眞理子のサイズどおりだ。
「すごくかわいい。ありがと」
 萌美はそっぽを向いたまま。
「座って。これをくれるためだけに来たんじゃないんでしょう?」
「うん……実はそのとおりなの」
 気を利かせた絵梨奈が席を譲った。入れ替わりに萌美が座った。
「プライド女学院大学附属高校って知ってる?」
「知ってるわよ。隣県で一番勢いのある女子高だもの」
 香織と萌美の闘いがストリーミング中継されたように、日本全国には乳道に邁進する巨乳女子高校生が多く存在する。それはアンダーグラウンドのコミュニティかもしれないが、自分の乳房を武器として至高の座を目指している女の子が大勢いるのだ。彼女たちの矜持衝突は女子大生になっても社会人になっても続く。今ではS学生やC学生でも頭角を現す存在がいるほどだ。

「それがどうしたの?」
「昨日、私の後輩がやられた。プライド附属高校のやつらに、二人掛かりで」
「……えっ」
「あいつら越境してる。こっちに侵出してくるつもりだよ。地元は併呑し終わったから」
「それ、一大事じゃない……」
 萌美の言うプライド女学院大学附属高校は最近版図を拡大しつつある女子高だった。次々とライバル校を屈服させ、乳比べマップを塗り替え続けている。軍隊並みに統制の取れた指揮系統は乳比べ世界に変革をもたらしていた。総司令官は、たかだかFカップにもかかわらず人望と戦略に秀でた人物――確か美織とかいったはずだと眞理子は記憶を探った。
 宣戦布告と同等の事態に、香織も彩世も絵梨奈も息を呑んだ。
「だから眞理子さんに加勢を頼みたいの。聖ブレスト女学園の戦力だけじゃ太刀打ちできない。眞理子さんの軍門にくだるから援軍を送ってください、お願いします」
 萌美が深々と頭をさげた。
 プライド女学院大学附属高校が越境してくるなら、戦略上、真っ先に狙われるのは聖ブレスト女学園だ。要衝として防壁の役割を果たしているのだから。そして萌美たちが降伏することは、すなわち乳比べ世界のミリタリーバランスが崩れることを意味していた。

 ……しばらく考えていた眞理子がつと口を開いた。
「冗談じゃないわ」
「……え」
「軍門にくだるとか笑わせないで。私と結城さんは――聖フォレスト女学院高校と聖ブレスト女学園高校はこれまでずっと良いライバルだったじゃない。それをいきなり殿様とか家臣とか格付けするのはやめて。今でも対等の関係だと思ってる、私は」
「それじゃ……」
「これは主従関係の確認じゃない。対プライド附属高校戦を前にしての同盟よ。喧嘩を売ってくるなら堂々と買ってやろうじゃない。やつらが――乳比べの双璧校に勝てると思ったら大間違いよ。返り討ちにして惨めな思いをさせてやるだけ」
「眞理子さん……」
 眞理子が立ち上がり、車輌全体に声を張った。
「この場にいる全員に告ぐ! たった今、聖フォレスト女学院高校と聖ブレスト女学園高校は同盟関係を結んだ。迎え撃つのはただ一校、プライド女学院大学附属高校のみ! 各自、これまでの軋轢は水に流して敵の侵略に備えよ。乳道を目指す者は貧乳でも微乳でも戦力として歓迎する」
 途端、両校の生徒たちが堰を切ったようにLINEアドレスを交換しはじめた。本当は仲良くしたかったのかもしれない。車輌全体が士気とお喋りに満たされた。

「一騎打ちする前にまさか仲間になるとはね」
 と葛西彩世が微笑んだ。
「私も同感」
 と結城萌美が握手を求める。互いにライバル視していながら、結局は闘うことのなかったふたりは、対プライド附属高校戦で多大な戦功を収める。それは香織も同じだった。

 ――矜持と友情とが結晶し、伝説がはじまる。
 同盟関係を結んだ二校は、乳比べ史上に残る壮絶な迎撃戦を繰り広げた。


                   『矜持衝突 そして伝説へ……』了

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Re:『矜持衝突 そして伝説へ……』  Angel Heart  - 21/6/11(金) 18:21 -

 自演アゲ。事情はお察しください_(._.)_

>矢野トロイカ政権さん
 ハンドルネームを変えての度重なる荒らし行為、再三のお願いにもかかわらず懲りない作品テーマの強要。さすがに堪忍袋の緒が切れました。今後、葛西彩世ちゃんと結城萌美ちゃんが男に顔面圧迫する作品は書きません。同様のプレイをお望みなら他の投稿サイトを探してください。理想の小説が待っていると思います。

 別ハンドルで初めてご感想をいただいた時にはファンが増えたようで嬉しかったですが、このような結果になって残念です。葛西彩世ちゃんと結城萌美ちゃんは思い出キャラにしてください。

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『矜持衝突 初めての勲章』 小説  Angel Heart  - 21/6/13(日) 16:42 -

       Extra Pride『矜持衝突 初めての勲章』

 車内から会釈してくる女子高校生を見つめながら、葉山美鈴は懐かしく、そして頼もしい想いに囚われていた。乳道に邁進する人生を引退して十年。自分が信じていた乳道精神はちゃんと後輩に受け継がれていた。電車に乗り込もうとした瞬間、三両目から決闘の空気が流れてきたのには驚いたけれど。
 頑張れ後輩――と自分のバストを指差して車輌を見送ると、美鈴は閑散としたプラットフォームに佇み、大切に思っている勲章を思い出した。

               †††

(なんでこの女がいるのよ)
 混浴露天風呂に行き、乳白色の湯に足をひたした美鈴は、不快な存在を目に留めて舌打ちした。渓流のせせらぎを聴きながらのんびりできると思っていたのに、これじゃ雰囲気ぶち壊しだ。
「……あら奇遇ね、美鈴ちゃんに会うなんて。家族旅行?」
 湯を掻いて言ったのは相沢柚香だ。二カ月前、塾のお試しコースで個別指導してくれた女子大生。教え方が適当で、暇さえあればケータイをいじっていた。何よりムカついたのはその二面性だ。自分に寄ってくる男子生徒にはニコニコするくせに、美鈴に対しては異常なほど攻撃的だった。チクチクと胸の優劣を仄めかしてきたのだ。C学三年でEカップある美鈴に敵愾心を持ったのかもしれない。もちろん美鈴は塾に入会せず、厭味な女を記憶から消し去った。
 ――それなのに。
「そうです」
 つっけんどんに答えると美鈴は湯船に身体を沈めた。普通なら「先生も旅行ですか?」と訊き返すのだろうが、猫かぶり女がどんな理由で来てようが知ったことじゃない。心を無にしてこの不快な時間に耐えるだけだ。

「あの男の子たち、きっと照れてるのね」
 柚香が顎で指した。見れば少し離れた場所に男の子がふたりいる。S学校六年生くらいだろうか。必死でこちらを見まいとしているが、紅潮した顔はのぼせたせいだけじゃない。
「そうですね」
「混浴でどきどきしてるのよ。かわいい」
 イラつく笑みを浮かべると柚香が湯船から上がり、浴槽のへりに腰掛けた。さんざん自慢されたバストはHカップだ。でかいとは思うが羨ましいとは思わない。この女だけは。
「どきどきしてるって言っても私の裸を見たからよ。美鈴ちゃんは今入ってきたばかりだし。あの子たちのおちん○ん、元気にさせちゃったかも」
 一言余計だ。美鈴はイラついた。
「勃起してなかったら残念ですね」
 湯水を両手で掬いながら思わず毒づいてしまう。柚香がキッと美鈴を睨んだが、すぐに普段の表情に戻った。
「勃起してるわよ。だって女子大生のおっぱいを見れたんだもの。あの年頃の男の子はね、年上のお姉さんに憧れるの。性の迷宮から救い出してくれる女神を待ってるのよ」
「私にも弟がいますけど、S学生から見れば女子大生もC学生も大差ないですよ。歳が離れてるぶん、女子大生はむしろ近づきがたいと思いますけど」
「そんなことないわ。塾の男の子たちはみんな私にメロメロだもの」
 湯水を掬って柚香が上半身にかけた。少年たちを誘惑するように乳房を揉む。
「谷間でもチラつかせてるんですか」
「励ますふりをしておっぱいに触れさせてあげるの。こうぎゅって腕を組んで」
 見えない腕を柚香がふくらみに押しつけた。何とかっていう罪で逮捕されればいい。この女が消えてくれたらせいせいする。
「勃起してるかどうか確かめてみる? そんなに疑うんだったら」
 柚香が挑発的な口調で言った。
「ご自由に。単に男湯に厭きてここに来てるだけだと思いますけど」

 柚香が手招くと男の子たちが近寄ってきた。湯船から身体を上げずに。間近で見る柚香の巨乳にびっくりしたらしく、あんぐりと口を開けていた。
「お姉さんのおっぱい見てた?」
「み、見てません……」
「見てないよな?」
「怒ってるんじゃないの。お姉さんの裸に興味持ってくれてるなら嬉しいなって」
 慌てて視線をそらす少年たちに微笑みかける性悪女。この仮面で男子生徒を誑かしているかと思うと吐き気がする。そしてそれに騙される単細胞連中。残念ながら目の前の男の子たちもその類だった。叱られるんじゃないんだ、と安堵して、視線をこちらに戻したのだ。
「ほんとは見ました。……でもジッとじゃないです」
「一瞬だけだよな? ガン見しちゃだめだぞって話しあってたし」
「おちん○ん元気になってるのかな? 立ち上がってこっちに来られなかったってことはそうだよね? 恥ずかしくてバレたくなかったんでしょ?」
 馬鹿らしい。どっちでもいいじゃん。それよりさすが源泉かけ流しだ。けっこう熱い。
 美鈴も浴槽のへりに腰掛けた。裸を見られても全然恥ずかしくない。
 男の子たちは柚香に問い詰められて戸惑っていたが、やがて同時にうなずいた。
「嬉しい。じゃあさ、お姉さんに見せてくれる? ボクたちのおっき」
 男の子たちがもじもじした。年上のお姉さんに勃起を見られることではなく、友達に、変化したそれを見られてしまうことが恥ずかしいのだ。修学旅行などの入浴タイムでは、ちん○んぶらぶらソーセージなのだから。
 けれど片方の男の子に勇気があった。湯船から立ち上がったのだ。もうひとりも友情を示すように立ち上がる。包皮に包まれたソーセージが健気に上を向いていた。

「すごい元気」
 柚香が小さく拍手する。勝ち誇ったような一瞥を美鈴に向けた。
「誰のおっぱいでこうなっちゃったの?」
 自信満々で尋ねる柚香。しかし直後に固まった。男の子たちがそれぞれ違うおっぱいを指差したのだ。勇気のあるイケメンくんは美鈴を、真面目そうな親友は柚香を。
(ぷ……笑えるオチ)
 美鈴はほくそ笑んだ。その嘲笑が癪に障ったらしい。柚香が続けた。
「じゃあ私とこのお姉さんと、どっちのおっぱいが大きいと思う?」
 今度はふたり同時に柚香を指差す。当たり前の質問までして優越感を得ようとする柚香の気持ちが理解できない。なぜこんなにも胸の優劣を競いたがるのか。
「満足しましたか」
 と美鈴はタオルで顔の汗を拭い、両足を湯船の中で泳がせた。
「まだよ。美鈴ちゃんを降参させてないんだもの。次の闘いで決着をつけましょう」
「は……闘い? 意味不明なんですけど」
「勝負したいことがあるの。それでも私が負けたら潔く美鈴ちゃんの優位を認める。夏期講習の時の意地悪も謝罪するわ」
 よくわからなかったが、あの厭味な思い出を謝ってもらえるなら付き合ってやってもいい気がした。胸糞な女に頭をさげてもらえたら爽快だ。
 ただ気になるのは柚香の表情だった。チクチクと胸の優劣を仄めかしてきた時とは違い、どこか真剣さを帯びている。
「どんな勝負ですか」
「パイズリよ。この男の子たちを先にイかせたほうが勝ち。単純明快でしょ」
 ……パイズリってなに? 美鈴は焦った。性的な行為なのは想像できるが、どういったものなのか知識がない。もちろん学校の友達とはエッチな話はする。セックスもフェラチオもオナニーも知っている。けれどパイズリってなに? どうやるの?
「相手するのは自分のおっぱいでおっきしなかったほう。その条件で勝利すれば、『やっぱり自分の胸が一番なんだ』って自信が持てるもの。いい?」
「もちろんよ」
 美鈴は了解した。猫かぶり女の手前、間違ってもパイズリがなにか訊けない。

 直立するイケメンくんの前に柚香が、真面目くんの前に美鈴が陣取った。美鈴以上に知識がない包茎ボーイたちは戸惑っている。十センチそこそこの肉棒を上向かせているだけだ。
「使うのは胸だけ。口も言葉責めもNG」
「わ、わかったわ」
 柚香がイケメンくんのち○ぽに手を添え、慣れた様子で谷間にいざなう。そして左右の乳房を手繰り寄せると、しっかりと挟み込んだ。両手を組んで上下に擦りはじめる。
(あ……なるほど。おっぱいで挟んで擦るからパイズリなんだ)
 美鈴の知識がひとつ増えた。
 美鈴も真似して真面目くんのおっきに手を添えてみたが、元気いっぱいのそれはすぐにそり返りたがった。なかなか谷間に誘導できない。うまくいったと思って挟もうとするとぴんっとまた逃げていってしまう。
「…………」
 悪戯される真面目くんは唇を噛んだまま。もどかしそうだが、自分が何されるのかわかってないので急かすこともない。
 何回かの試行錯誤の末、美鈴はやっとおっきをEカップに挟んだ。初めての感覚に真面目くんが腰を引かせる。気持ちいいのかな、と美鈴は直感的に察した。
 隣では猫かぶり女がHカップを操っている。乳房を交互に揺らしたり圧迫したまま包皮を捲ってみたり。イケメンくんががくがくと足腰を震わせていた。
(まあ適当に付き合うか)
 負けたところで美鈴は悔しくない。それより、この機会にパイズリを練習してみようかと思った。片想いの彼といつかそういう日を迎えた時、してあげたら喜んでくれるかもしれない。
 厭味女みたいに乳房を操れないので、美鈴は単純に谷間で擦ることにした。おっぱいを揺らしたり、身体を上下させたり。
 彼氏のおちん○んだと想定してEカップを強く揺すった時、真面目くんがつぶやいた。
「ち、ちん○んがなんかムズムズします……っ」
 途端、谷間に埋もれた肉棒が液体を吐き出した。それは保健体育で習った白濁液とは異なり、透明な見た目だった。美鈴はもちろん、真面目くんがそのとき精通を迎えたことを知らない。自分のおっぱいが射精させられる能力を持っていることに驚いていた。不思議と自信がわいていた。
 敗北を悟った柚香が悔しそうな表情でHカップを動かし続ける。最後の矜持とばかりにイケメンくんを射精に導いたのだ。深い谷間から亀頭を覗かせたソーセージは、女子大生の顎に向けておびただしい量のスペルマを飛び散らせた。

「完全に私の負けね。まさか美鈴ちゃんに敵わないとは。乳道のちの字も知らないC学生に負けるなんて、私のバストもまだまだかな。個別指導の時は厭味なことばっかり言ってごめん。巨乳のC学生がいて闘争心が疼いたの」
 イケメンくんと真面目くんのち○ぽを湯水で洗うと、美鈴と柚香は再び浴槽のへりに座り直した。突然、猫かぶり女の態度が変わったことに美鈴は困惑していた。ムカつく捨てセリフでも吐かれるかと思っていたのだ。
「乳道ってなんですか」
「おっぱい同士を闘わせて究極の栄光を目指す女の世界。地下世界のコミュニティなんだけどちゃんと存在するの。私はその乳道戦士の端くれ。高二の時からよ」
「ふうん。そんな世界があるんですか」
「美鈴ちゃんだったら頂点に立てるかも。おっぱいはこれからもっと大きくなるし」
 美鈴は柚香を許す気になっていた。チクチクと胸の優劣を仄めかしてきたのも、今日ここで勝敗を決しようとしたのも、乳道戦士とやらの本能なのかもしれない。何より負けを認めた瞬間、自分の意地悪を謝った潔さに気高さを感じた。
 柚香が立ち上がり、美鈴の肩を叩くと露天風呂から消えていった。柚香に手を振られた男の子たちは、まだ呆然とパイズリの余韻に浸っていた。

               †††

 ……それから美鈴は乳道に興味を持ち、プライドが衝突しあう世界に足を踏み入れた。彼氏をパイズリで射精させるのも楽しかったが、それ以上に強敵を乳でギブアップに追い込むほうが快感だった。通算成績は全然誇れるものじゃない。上には上がいる世界だった。
 あの温泉で乳道に導いてくれた女子大生は熟女になっているだろう。まだ懲りずに闘い続けているかもしれない。元気なソーセージを見せてくれた男の子たちは、今頃、合コンで彼女を探し求めているのだろうか、それともひきこもって人生を哲学しているのだろうか。
 ……遠くから電車の音が聞こえてきて美鈴は我に返った。いつの間にかプラットフォームに乗客が並んでいる。
 停止線で扉を開けた車輌に美鈴は乗り込んだ。たくさんの女子高校生であふれていた。
(頑張れ後輩)
 微笑んだ美鈴の目の前で、扉がゆっくりと閉まっていった――。


                     『矜持衝突 初めての勲章』了

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Re:『矜持衝突 初めての勲章』  矜持衝突ファン  - 21/6/14(月) 1:49 -

Angel Heart先生!

まさかこんなにも早くに、しかも超大作の矜持衝突シリーズを投稿して頂き本当にありがとうございます!!

あまりの超大作に読み切るのが遅くなり(他のおっき的な理由もありますがw)、感想が遅れてすみません!

先ずは、改訂版から。
本当にこの1作目の矜持衝突は何度読んでも、結末を知ってても興奮します!
2人の女王の矜持のぶつかり合い、技の応酬、まさかの展開と全てが最高傑作です!
今回の改訂版は、より2人の感情を読み取れた気がします!
最後の眞理子の敗北宣言からの萌美のセリフが興奮しました!!
いつかAVなどの実写でも、エロアニメでもいいので映像で観たいものですw!!

そして、伝説編も凄かったです…
瀬名香織の復讐の炎がよもやよもやと伝わりました!!
あとまさかの葛西彩世の登場にも驚きました!乳道の志士だったとは…
香織と萌美と激しい言葉の攻め合いに既に興奮しながら、nao先生のブラジャー交換には懐かしさを覚え、揉みつぶし対決の乳首の攻め合いでは萌美の特訓を想像し、文章だけでも迫力満点なおっぱいボクシングも最高でした!
そして最後の闘いは1作目よりも激しい寝技の応酬!香織の勝利に感動しながら、1度でいいから縦乳四方固めを受けてみたいと思っていましたw!

そしてまさかの最後の展開!仲直りからの同盟!クローズ(ちゃんと漫画を読んでないですが…)のような展開に再び感動しました… もう5年後でも10年後でもいいのでプライド女学院との対決も楽しみにしておりますw!!!


そこからの、スピンオフ的なパイズリ競争までありがとうございます!
こんな夢のような混浴施設があったら行きたいですw!
Hカップの柚香にEカップのウブな美鈴が簡単に勝利する、C学生でこの実力となるとその先が気になりますね!


少し長くなってしまいすみません。
しかし、本当に素晴らしい作品をありがとうございました!!(なんだか自分のせいで荒れてしまったなら申し訳ありません…)
もう個人的今年のオカズ大賞はこの3部作で決まりですw!!!ありがとうございました!!

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Re:『矜持衝突 初めての勲章』  Angel Heart  - 21/6/14(月) 14:17 -

>矜持衝突ファンさん
【結城萌美】おっきの事情があって返信が遅れたっていうの? 私を待たせるなんていい度胸してるわね。掛かってきなさいよ、縦乳四方固めで瞬殺してあげる。

 萌美ちゃんは怒ってるみたいですが、ご感想ありがとうございます。以前にお約束していた通り、『矜持衝突』の改訂版と続編を一気に発表させていただきました。

■『矜持衝突 改訂版』
 適当に改行スペースを設けたり、余分な表現を削ったりしただけの改稿で、物語内容への加筆修正は加えておりません。初出より読みやすくしたかっただけです。

■『矜持衝突 そして伝説へ……』
 敬愛する先輩の敵討ちに挑む香織ちゃんの執念が伝わったみたいで安心しました。
 葛西彩世ちゃんと結城萌美ちゃんは他作品で仲良し設定ですが、萌美ちゃんだけ乳道戦士で彩世ちゃんはそうじゃない……のはありえないなと思っていましたので、続編を書く際には前々から登場させるつもりでいました。今回の同盟で仲良くなって、他作品の痴女プレイに至ったのかもしれません。ただ作品間の時系列はめちゃくちゃですよ。
 naoさんは「乳比べ」というジャンルを開拓した偉人ですからね、オマージュ的な意味合いで《ブラジャー交換》を組み込みました。今でもnaoさんの作品を読み返しますが、乳比べ愛とあふれるシチュエーションアイデアには感服します。戻ってきてほしい……。
 この作品にどんな大団円を迎えさせるか――と悩んだ時、共通の敵に立ち向かうべく同盟関係を結ばせれば? という天啓がひらめきました。作者にも意外な展開です(笑)
 ちなみにプライド女学院大学附属高校の総司令官・美織はもちろん、『矜持衝突 懲罰と友情と』に登場したあの美織ちゃんです。いじめられた後輩のためにショップ店員を倒すんですから、人望があってしかるべきですね。
 対プライド附属高校戦の物語はアイデアがまだ浮かんでおりません。ただ軍隊並みの指揮系統を持つ同校に対し、同盟軍も個人プレーではなく組織だって迎撃することになるでしょう。総司令官(盟主)丹羽眞理子と総参謀長・結城萌美のもと、四天王隊が主力部隊になる漠然としたイメージが……。まあアイデアが固まったら書くかと思いますので、気長にお待ちください。どこかの高校が乳道で全国制覇を達成した時、壮大なこの『矜持衝突』本伝は終焉するのかな、と(投稿に何年かかるんだよ)

■『矜持衝突 初めての勲章』
 これは本編を執筆中にひらめいた物語で、当初投稿予定にはありませんでした。爆乳のこの美魔女(旧乳道戦士)はどんな戦歴があるんだ? と気になったらアイデアが降ってわきました。ただ矜持をぶつけ合うストーリー展開では本編と差別化を図れませんので、ひとりのC学生が乳道世界に足を踏み入れるきっかけを書くことにしました。乳道戦士前と乳道戦士を引退した後のビフォー・アフター物語ですね。
 このテーマを守りたいので、申し訳ありませんが葉山美鈴の物語はもう書きません。香織や萌美たち後輩を見守る存在がいるんだ、と安堵して終わりにしてください。

 返信というか執筆の裏事情の紹介でした。また『矜持衝突』シリーズを投稿した際はご感想お待ちしております。引き続きのレスにも応じます。ファンとの交流、ファンどうしの交流も作者のエネルギー源ですので_(._.)_

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Re:『矜持衝突 初めての勲章』  Mr.774  - 21/6/15(火) 20:51 -

Angel Heart様

新作ありがとうございました。
乳比べ妄想小説のレジェンドとも言うべきnaoさんの話も登場していましたね。
勝手にnaoさんの作品の続編を書いてしまった身ですが、もしかしたらここに戻ってきて再び筆をとってくれないだろうかという淡い期待も抱いています。

プライド附属高校は、聖ブレスト・聖フォレストに比べれば、サイズは大したことない(こんなこと言うと怒られるか…)ので、大将による直接対決なら聖ブレスト・聖フォレストが圧倒的に有利なのでしょうが、プライド附属の組織力は侮れなさそうですね。

本編もそうですが、矜持衝突ファンさんへのリプライの中にあった、結城萌美ちゃんの「縦乳四方固めで瞬殺」という言葉の破壊力が凄すぎて。
聖フォレスト女学院高校文化祭の香織女王様が、ケツがでかいと言われた報復にぱふぱふで窒息させようとしてきたり、暴力的なパイズリを仕掛けてきたシーンを思い出しました。
是非とも縦乳四方固めを食らってみたい…、できれば瞬殺ではなくじわじわとなぶり殺しで…、と変態な妄想を繰り広げてしまいました。

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Re:『矜持衝突 初めての勲章』  Angel Heart  - 21/6/16(水) 9:56 -

【葛西彩世】……あなたnaoさんのファンよね? 知ってるわよ。実は私もレジェンドの乳比べ小説を愛読してるの。闘い方の参考になるんですもの。ほんと、戻ってきてほしいわよね。

>Mr.774さん
 ご感想どうもです。そろそろ書き込んでくれる頃合いかなと思ってました。
 原作者として、ファンに続編や二次作品を書いてもらえることは、自分の人気をはかるバロメーターになりますので、naoさんも喜んでいるかと思います。
 同盟軍対プライド附属高校戦は、大将戦に至るまでの過程がメインテーマになるでしょう、わかりませんが(美織ちゃんも日々鍛錬に励んでますので、バストサイズだけで下馬評を決めるとどんでん返しがあるかも。実際、彼女は自分より巨乳のショップ店員に勝ってますからね)
 ……萌美ちゃんの縦乳四方固めを喰らいたいと? やめたほうがいいです。Jカップを顔に押しつけてもらえるんだ、とどきどきするかもしれませんが……いやあれまじで喜んでる余裕ないから。試しに萌美ちゃんに技をかけてもらったら命の危険を感じました。乳道戦士の寝技はほぼ殺人です。
 それでもなぶり殺しされたいのなら、(作者は責任を負いかねますけど)萌美ちゃんに頼んでみてください。あの世に導いてくれるでしょう。

『矜持衝突』シリーズへのご感想、ありがとうございました。またの返信をお待ちしております_(._.)_

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『矜持衝突 大いなる野望、ささやかな夢』 小説  Angel Heart  - 21/6/16(水) 17:04 -

   Extra Pride2『矜持衝突 大いなる野望、ささやかな夢』

 壁掛けの大画面テレビに映し出されるマップを眺めながら、美織たち数人の生徒は作戦の最終確認をおこなっていた。おととい、後輩数名に命じて県境を越えさせたところ、期待どおり聖ブレスト女学園高校の生徒ひとりを敗北に追い込んできた。ふたり掛かりでの急襲は少し卑怯に思えたが、向こうにこちらの意思を知らしめる目的は果たせた。これで結城萌美率いる聖ブレスト女学園高校は宣戦布告と受け止めただろう。他県への侵攻がいよいよ始まる。

 ――プライド女学院大学附属高校別館校舎三階。そこで架空の部活動を装っているのが同校《乳比べ総隊》だ。総司令官室を併設した司令本部には、軍議を催すためのブリーフィングルームや、諜報隊が情報を収集・分析するための情報管理ルームがある。個人プレーで刹那的な勝利を目指す旧弊に疑問を持った美織が、乳比べ世界に軍隊の思想を取り入れた結果だ。美織は刹那的な勝利ではなく、乳道で全国制覇を成し遂げるという大いなる野望を持っているのだから。

 作戦参謀が画面をスライドさせて編制部隊の確認を始めた時、ブリーフィングルームのドアがノックされて諜報部員が入ってきた。慌てた表情をしている。
「ブリーフィング中、失礼致します。緊急のご報告があったものですので」
「なにかしら?」
 と美織は回転椅子ごと振り向いた。
「昨日、聖フォレスト女学院高校と聖ブレスト女学園高校が同盟関係を結んだとのことです。我らの宣戦布告に対し、共同戦線を張ることにした模様です」
 将校たちがどよめいた。信じられない、といった様子でボブヘアーの生徒が眉をひそめる。指揮官のひとりだ。
「両校は敵対関係にあったはず。確かなのか?」
「間違いありません。両校に友達がいる生徒から確認を取っています」
 乳比べの双璧校と称される二校が手を結んだ。ブリーフィングルームにいる全員にとって急転直下の出来事だった。各個撃破するつもりだった敵が同盟関係を結んだとなれば、作戦立案の前提条件が崩れる。
 言葉を失う将校とは対照的に、美織はなぜか嬉しそうな表情をしていた。
「それは光栄ね。手を組まないと私たちには勝てない――そう劣勢を認めた証でしょ? 何をそんなに怖れるのよ」
「ですが美織様。両校が同盟を結んだ以上、戦力差が想定と変わります」
「そうかしら? 確かに各個撃破はできなくなったし、緒戦に勝利後、結城萌美を指揮官に招聘して聖フォレスト女学院を討つっていう計画もだめになったわ。けれど同盟関係になったところで、私たちが警戒すべき敵将は変わらない。結城萌美、丹羽眞理子、葛西彩世、安藤絵梨奈……あともうひとりいたわよね、名前なんだったかしら?」
 瀬名香織です、と諜報部員が言った。二校が同盟関係を結んだ経緯も。
「各個撃破が決戦に変わっただけのことよ。それに、向こうはこちらと違って組織立ってない。さすがに個人プレーはやめるんでしょうけれど、指揮系統は一朝一夕に確立できるものじゃないわ。絶対に混乱する。むしろ隙を衝くチャンスが生まれたと思わない?」
 将校たちがうなずいた。さすが総司令官だ。
「……もっとも、作戦は考え直さないといけないわね。明日あさってに激突する可能性は低いから練り直してみましょう。報告ご苦労様」
 美織が微笑むと、諜報部員が敬礼のかわりに会釈して立ち去っていった。
 なんか面白くなってきた――。美織は密かに武者震いしていた。

                ***

(やっぱり私には向いてないのかな……)
 別館校舎の階段に座りながら、波多野花梨はため息をついた。美織の人柄に惹かれて《乳比べ総隊》に入隊したものの、才能がまったく開花しない。日を経るごとに自信喪失していくばかりだ。
 さっきも総隊仲間と鍛錬に臨んだら、セーラー服の上からおっぱいをくっつけ合っただけで降参してしまった。ムニムニと押されて感じてしまったのだ。負けをごまかすように笑うと先輩にどやされた。乳比べは百合プレイじゃないんだぞ、と。
 貧乳だからしょうがないもん――とみずからに言い訳する自分が嫌だった。乳道の頂点なんかどうでもいい。少しでもいいから美織先輩の役に立ちたい。それがささやかな夢だ。

「トレーニングは終わったの?」
 花梨が頬杖をついていると声をかけられた。見れば美織がすぐそばに立っている。副官の生徒を連れていた。
「あ……いえ、ちょっと休憩です。全然サボってるわけじゃ」
 花梨は慌てて立ち上がった。
「そう。ならいいの。遊び半分で乳比べする隊員は必要ないから」
 じっとこちらを見つめてくる憧れの先輩に、花梨は疑問を覚えた。
「あの……どうして私が隊員だってわかったんですか。美織先輩とは話したこともないのに」
「波多野花梨、普通科一年二組環境整備委員。プライド附属中学の出身で趣味はスイーツの食べ歩き。乳比べ総隊に入隊したのは一カ月前で、動機は私に憧れていると同時に、自分の貧乳に自信を持ちたいと思ったから。バストサイズは78センチのAカップ。……知ってるわよ。隊員を把握するのは総司令官として当たり前だもの」
 瞬間、花梨の心に感激の衝撃波が押し寄せた。腹心でもなんでもない、Aカップ程度の新兵を知ってくれていたなんて。趣味や動機までも把握してくれていたなんて。
「あ、ありがとうございますっ」
 花梨は体前屈並みに頭をさげた。
「乳道が自分に向いているのかどうか悩んでる顔ね。私にも経験あるわ。想像以上に厳しい世界ですぐ自信を失うの。甘く考えていた自分が馬鹿だったなって」
 美織が同情するように微笑んだ。
「でも美織先輩は県下を併呑されたじゃないですか。すごいと思います!」
「乳比べに軍隊様式を導入すればいいのかなって天啓があったからよ。あなたも自分なりの得意分野を見つければいい。貧乳には貧乳にしかできないことがある。乳比べは決して巨乳爆乳だけの特権じゃないわ。誰もが参戦できる寛大な世界なの」
 階段を下りていく総司令官の背中に、花梨は懸命の声をかけた。
「……特訓してください! お願いしますっ!」

 本館校舎南棟――体育館ピロティ。隊員たちがよくトレーニングに使っている場所だ。体育館からはバスケ部やバレー部の練習音が聞こえてくる。
「ここでいいわ。あなたの実力を見てあげるから好きなように掛かってきて」
 美しい髪をポニーテールに結うと美織が言った。総司令官の登場に他の隊員たちがトレーニングを中断する。なにが始まるのか興味を惹かれたのだ。美織の胸を借りられる機会はそうそうない。
 花梨は気持ちを落ち着かせるように小さく深呼吸すると、Aカップを両手で持ち上げて突進していった。78センチを少しでも大きく見せる工夫だ。
 美織は避けなかった。堂々と正面で受け止めて、そして何もしない。跳ね返すことも、おっぱい相撲に持ち込むことも。
 花梨は懸命に押し込んだ。Fカップの防御力は想像以上に強固だった。プニプニ感いっぱいなのにほとんど潰れない。これが練度なんだと花梨は悟った。
 おっぱい相撲の相手すらしてくれないので、花梨は半ば自棄気味にセーラー服を脱いだ。買ったばかりのブラジャーを脱いでちっぱいをさらす。大きさは自慢できないけれど乳首は自分でもかわいいと思う。左の乳輪のすぐ下に小さなホクロがあった。
 ――と。無言のまま、憧れの総司令官も生乳を出した。セーラー服とブラジャーを一緒に捲る恰好で。隊員たちが慌ててスマートフォンで撮影しはじめた。美織のおっぱいを待ち受け画像にするのかもしれない。研究材料にするのかもしれない。
 乳首どうしをくっつけ合えば……というささやかな作戦をひらめいて、花梨は美織の乳首に自分のそれを押しつけ、身体を左右に振った。健気な突起がFカップを攻撃する。
 瞬間、花梨は背中を抱かれた。えっ……と戸惑った時にはもうAカップが見えなくなっていた。美織が乳房を押しつけ、全力で反撃したのだ。恐怖心から戦意を喪失し、花梨は降参を宣言した。屈辱を感じる暇すらなかった。
「なるほど。わかったわ」
 Fカップを離した美織が服を着直し、うなずく。
「あの……どこがダメなんでしょうか」
 花梨はちっぱいを出したままだ。バスケ部員がタオルで汗を拭きながらこちらを見たが、足を止めることはなかった。乳比べ総隊のトレーニング風景は見慣れている。
 具体的なアドバイスを待った花梨だったが、憧れの総司令官は一言こう言うだけだった。
「……波多野さん。あなた乳比べで勝ちたいの?」

                ***

『乳比べで勝ちたいの?』
 そう美織に指摘されて花梨はますます混乱した。乳道に足を踏み入れた以上、勝ちたいに決まっている。……いや勝ちたいんだろうか? 頂点の座に興味はない。自分は美織先輩の役に立てればいい。
 何日も悩み続けた頃、突然、花梨の頭に答えが浮かんだ。「あっ」と思わず大きな声を出して授業を中断させてしまった。
(そっか……私は乳比べで負ければいいんだ!)
 巨乳爆乳が掃いて棄てるほどいる乳道世界で、Aカップが勝利できる確率はゼロに近い。だったら勝利を目指すだけ無駄だ。変なプライドも要らない。その代わり闘って負けることで相手のおっぱい情報を収集できたら。敵を慢心させることができたら。
(美織先輩の役に立てる! 貧乳にしかできない得意技で!)
 自分の存在価値を再認識した花梨は、矜持の高揚を感じていた。

 ……それから花梨は聖フォレスト・聖ブレスト同盟軍の生徒に果敢に勝負を挑み、惨敗しては貴重な情報を司令部に持ち帰った。結城萌美や葛西彩世といった猛将以外にも要注意の乳道戦士がいると判明したのは、ひとえに彼女の功績が大きい。

 乳比べ史上に残る壮絶な侵攻作戦、迎撃戦は始まったばかりだ。
 花梨は諜報部の隊員として、今日も放課後、前線に乗り込んでゆく。


              『矜持衝突 大いなる野望、ささやかな夢』了

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Re:『矜持衝突 大いなる野望、ささやかな...  松永先生  - 21/6/16(水) 18:10 -

花梨ちゃん、逆に敵に自信つけさせて壊滅するフラグしかないですね。

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