Page 367 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 通常モードに戻る ┃ INDEX ┃ ≪前へ │ 次へ≫ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼Tits Cream Sisters 〜志穂・後編〜 Angel Heart 04/6/2(水) 23:07 ┣Re:Tits Cream Sisters Angel Heart 04/6/2(水) 23:11 ┗Re(1):Tits Cream Sisters 〜志穂・後編〜 防人 04/6/3(木) 1:51 ─────────────────────────────────────── ■題名 : Tits Cream Sisters 〜志穂・後編〜 ■名前 : Angel Heart ■日付 : 04/6/2(水) 23:07 -------------------------------------------------------------------------
その日の学校ではちょっとだけ変わったことがあった。 “キャンパスライフ講演会”というイベントが、午後の授業を潰して開催されたのだ。 私が通う“聖フォレスト女学院”は、卒業生の全員が国公私立大学へ進学する進学校。私も国立大学の理学部を目指して、毎日課外や進路面談に追われている。 そんな受験生である私たちに、キャンパスライフがどんなものなのか、現役の大学生を呼んでお話してもらうことになったのだ。 講演会には三人の人が来た。 工学部で最先端のメイドロボットを研究している大学院生と、白衣の天使から転身し、今は小児科医を目指して医学部に通っている元看護婦さん。そして外国人教師の補習が合格につながったという大学生だ。 どの話も面白くてためになった。特に元看護婦さんのお話は、同じ女としてうんうん頷けるところが多かった。“患者を増やすのがナースの仕事じゃないのよ”って婦長さんに怒られた話は笑ったけど。 あ〜、どうしよう。お話聞いたらまた迷ってきちゃったな。理学部に入りたいけど工学部も面白そうだし、ひょっとしたら医学部も私に合ってるかも知れない。 (そうだ、先生に相談してみよう) ふとそう思いついた。 でもそれは担任でも副担任でもなく進路指導の先生でもなかった。 私の頭に思い浮かんだのは、週に一度、妹に勉強を教えに来る家庭教師の先生だった。 「…………」 でもちょっとだけ不安になる。だって先生は里穂の先生。きっと私の進路なんか……。 ハァ……私のことも心配してくれるといいな。志穂は先生のこといつも考えてるのに。 「…………」 「…………」 「…………」 流れてゆく景色を視界の端に捉えながら、私はどう切り出そうか懸命に考えていた。家に着くまでの数十分を、このまま沈黙に耐えて過ごすのはとっても気まずかったから。 隣のシートでは、先生が何気ない表情でハンドルを握っている。駅を出るとすぐ、先生が偶然にも私を見つけて乗せてくれたのだ。 まるで先生の人柄がそのまま表れているような、シンプルできれいな車。CDプレーヤーから聴こえてくるのは、サントラを編曲したヒーリング系の音楽だった。 「さっき一緒にいた女のコたち、制服が違ってたけど志穂ちゃんの友達?」 先生が言う。「はい」と私は頷いた。 「中学のときに同じクラスだったんです。電車の中で偶然会って……」 「そうなんだ」 でもそれっきり会話が続かない。進路のこととか先生のこととか、もっといっぱい話したいことがあるのに。 「あれ……なんだ、通行止めかよ」 不意にブレーキを掛け、先生が車を止めた。何かの工事をしているみたいだった。 ギアをバックに入れ、先生が後を振り向く。そうして右手でハンドルを操作しながら、開いた左手が助手席に回ってきたのだった。なんか肩を抱かれた気がしてどきっとした。 「ちょっと遠回りになるけど、大丈夫?」 「大丈夫です」 だって先生ともっとドライブできるから。 「ああ……でも急がないとな。里穂ちゃんが待ってる」 「…………」 里穂のことなんか話さないで下さい。今は里穂のこと忘れて下さい。 「うん? どうしたの?」 元の車道に戻って、また車を走らせ始めた先生に向かって私は言った。 「あの……進路のことでちょっと悩んでるんですけど、先生、相談に乗ってくれますか?」 すると先生が微笑んだ。 「ああ、もちろん。志穂ちゃんは確か理学部に入りたいんだよね?」 「えっ……」 「里穂ちゃんに訊いたよ。“お姉ちゃんはどこの大学に行くの”って」 「…………」 そっか。先生、ちゃんと私のことも気にしてくれてたんだ。 「遺伝子工学で双子を研究するつもりなんだろう? ――偉いね。合格前に研究テーマまで決めてるなんて」 「そんなことないです……里穂と双子で生物が好きっていう理由だけで決めてますから」 「それで充分だよ。実際に双子の志穂ちゃんなら、きっと画期的な研究ができるさ」 「…………」 それで進路相談は充分だった。うん、やっぱり理学部に進もう。そして双子の謎を思いっきり研究するんだ。どうして性格や体型に違いが出るのか、なんで考えてることがお互いに分かるのかっていう謎を。 「――で、進路の悩みって?」 ハンドルを握る先生が言った。私は小さく首を横に振った。 「ううん、やっぱりなんでもないです」 「そう。でも悩んだら相談するんだぞ。先生、里穂ちゃんだけを見てるつもりはないから」 嬉しかった。もっともっと先生を好きなる自分がいた。 「あの」 と、何かに突き動かされるように私は口を開いていた。 「うん?」 「先生は、私のことどう思いますか?」 不意に先生が口を閉ざす。その横顔は何か考えていた。 「どうって?」 と、先生がはぐらかすように訊き返してくる。 「例えば、“好き”とか“嫌い”とか……です」 信号が黄色から赤に変わった。先生が車を止める。私の中で時間が止まった。 「“例えば”……以外には?」 「え?」 ハンドルに両腕を乗せて、先生が私の目を見つめた。 「“好き”か“嫌い”かっていう返事以外に、志穂ちゃんが期待してる回答ってある?」 「…………」 私は首を横に振った。先生は分かってるんだ。これが私の告白だってことを。 「ありません。――私、先生のことが好きです。だから……」 「同じことを里穂ちゃんからも言われてる」 「えっ?」 「メールが届いたんだよ。“先生のことがずっと好きでした”って」 「…………」 そうなんだ。“ひょっとしたら……”って気はしてたけど、やっぱり里穂ちゃんも先生のことが好きだったんだ。 「返事はまだ返してない。里穂ちゃんはあの通り、見た目は元気だけど本当は弱いコだからね。いい加減な返事を返せないよ」 「うん」 「でも志穂ちゃんまで僕を好きだったなんて、正直、驚いた」 目の前の横断歩道を、OLやサラリーマンたちが通り過ぎてゆく。 私は言った。 「ごめんなさい、突然ヘンなこと言っちゃって。なんか私、先生に自分の気持ちを伝えたくなって、それで……。あ、でも気にしないで下さい。付き合ってとかそんなんじゃなくって、ただ私の気持ちを知ってもらえればそれでいいですから」 本心じゃなかった。でも妹のために身を引かなくちゃ、と考える私がいた。 「…………」 「本当です。だから里穂の気持ちに応えてあげて下さい。ちょっと世話が焼けるところもあるけど、里穂ちゃんだったらカワイイし面白いし胸だって大きいから、きっと先生とお似合いだと思います」 横断歩道の信号が点滅を始める。歩行者の足取りがふと速くなった。 「胸の大きさが女の価値じゃないよ……」 静かに先生が言った。その言葉がズキっと私の心に突き刺さる。 「確かに里穂ちゃんは魅力的な体型をしてる。――でもそれが何だって言うんだ? 仮に里穂ちゃんの胸が小さかったら、志穂ちゃんは彼女に妹としての価値を認めないかい?」 「ううん、そんなこと絶対にありません。里穂はどんな里穂でも私の妹です」 「だろ? 同じことだよ。バストサイズに劣等感を持ってるみたいだけど、志穂ちゃんの存在価値はそんなことで決まらない。事実、志穂ちゃんは妹思いのとっても優しいお姉ちゃんじゃないか。そういう事の方が大切だと僕は思うな」 「…………」 嬉しかった。 嬉しかった。 とっても嬉しかった。 「ああ、なんか話が反れたね。要するに僕は、志穂ちゃんにもちゃんと魅力を感じてるってことさ。でも里穂ちゃんほどお話できる機会に恵まれてないから、今すぐにはお返事ができない。もっとよく為人を知らないと。――世話の焼ける妹か、それとも心の優しいお姉ちゃんか。どちらが僕にとって大切な人なのか、もっとよく考えてみるよ。うやむやにしないことだけは約束する。だからもうちょっとだけ返答は待ってくれる?」 うん、と私は頷いた。 信号が青に変わった。 先生がまた車を走らせ始めた。 その日はひとりでお風呂に入った。いつもは里穂ちゃんと洗いっコするんだけど、先生のことがあったからそんな気になれなかったのだ。 先生は来月、天体物理学を勉強するためにまたアメリカの大学院に留学するらしい。付き合ってくれるかどうかというお返事は、それまでにしてくれるということだった。 と言うことは、タイムリミットはあと1ヶ月だ。あと1ヶ月で先生が“私の彼氏”になか“妹の彼氏”になるかはっきりする。……どうなるんだろう。でもちょっと期待だ。 と、そんなことを考えながら、私は数学のテキストを開いた。センター試験を突破するために必要な問題が、マークシート形式でたくさん載っている。 うん、がんばろう。なんかがんばれる気がする。 ――その夜。私はふとヘンな気持ちになって目を覚ました。 ――見れば里穂ちゃんが、声を押し殺してエッチなことをしていた。 (〜姉妹編〜に続く) |
連続カキコになってて申し訳ないですが、前回の続きです。 “里穂編”をお読みになっていない方はまずそちらをお読み下さい<(_ _)> |
なかなか斬新な試みですね。 AngelHeartさんの文章は描写が丁寧なので好感を持ちます。 これからどうなっていくのか楽しみです。 |