Page 366 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 通常モードに戻る ┃ INDEX ┃ ≪前へ │ 次へ≫ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼Tits Cream Sisters 〜志穂・前編〜 Angel Heart 04/6/2(水) 23:04 ─────────────────────────────────────── ■題名 : Tits Cream Sisters 〜志穂・前編〜 ■名前 : Angel Heart ■日付 : 04/6/2(水) 23:04 -------------------------------------------------------------------------
「ねぇ、里穂ちゃん。里穂ちゃんってば、起きてよ。もうすぐ7時だよ」 「ん……」 「早く起きないと学校に遅刻しちゃうよ。起きて」 私が静かに声を掛けても、妹の里穂は目を覚まそうとしなかった。まるで夢の中に逃避するように枕を抱きしめ、あと五分だけ、とお願いしてきたのだ。 まったく、毎日のことだけど往生際が悪いんだから。 私はグイグイと妹の布団を揺すった。早く起きてってば。里穂ちゃんに合わせてるとお姉ちゃんが遅刻しちゃうんだぞ。 「あと三分……ううん、あと二分五九秒でいい」 「ダメだよ、今すぐ起きてってば。じゃないとホントに遅刻しちゃうよ」 「それじゃ、里穂、今日ガッコー休むー」 「なに言ってるの、もうっ。――ほらっ、起きて制服に着替えないと」 私は有無を言わさず布団を捲った。妹は世界一有名なネズミのパジャマを着ていた。 「…………」 仕方ない、と言った感じで妹が目を覚ます。んもう……髪は寝癖で無茶苦茶だし、すっぴんの顔も寝ぼけてて間抜けだ。こんな姿誰にも見せられないってば。 「着替えて、朝ごはん食べて、忘れ物しないように準備しなくちゃ」 私がお姉ちゃんらしくそう言うと、 「里穂、朝ごはんいらな〜い」 妹が甘えたように呟いた。起きてすぐ食欲がないのは分かるけど、里穂ってばいつも朝ごはん食べないじゃない。 「まだダイエット続けてるの?」 私は肩を竦めた。里穂ちゃんはスレンダーで足も細いんだから、そんなにダイエット頑張らなくてもいいのに。むしろお姉ちゃんだよ、もうちょっと痩せなくちゃいけないのは。 「ヨーグルトだけでも食べたら? 朝ごはん抜くと体に悪いよ」 まるでお母さんみたいだな、と思いながら私は言った。でも妹は首を横に振る。 仕方ない。もう放っておこう。 「それじゃ、準備ができたら言ってね。お姉ちゃん、下で待ってるから」 「うん……」 眠い目を擦る妹にそう言うと、私は部屋を出て行った。 それはもう何年も繰返されている毎日だった。 階段を下りるとすぐ、私はバスルームに行って洗面台の鏡に向かった。 チェックのミニスカートにシワひとつ無い真っ白なブラウス。紺色のブレザーには白鳥を意匠化したエンブレムがキラキラと輝き、“聖フォレスト女学院高等部”の生徒であることを誇示していた。 その制服を着ているのはもちろん私。セミロングの髪を茶色に染めた、どこにでもいる普通の女子高生だ。 ――でも。 (あ〜あ……私ってどうしてこんなに貧乳なんだろう? 里穂ちゃんみたいにもっとおっぱいが大きかったら、きっと自分に自信が持てるのに) 心の中で呟いて、両手を胸にあててみる。ブレザーを着ると膨らみすら消滅する、Bには程遠いAカップ。昔は“これから大きくなるんだから……”と自分を慰めていたけれど、もうすぐ成長も止まる。妹の巨乳が羨ましかった。 (双子なのに……どうしてかな?) 「志穂ちゃん、顔洗うからちょっと洗面台かして」 下りてきた妹が言った。私は慌てて胸から手を外した。 「あっ、ゴメン」 そして場所を譲って、顔を洗い始めた妹をじっと見つめる。同じ日に生まれて、同じものを食べて、同じ屋根の下で育ったのに……。 ――ね、里穂ちゃん。どうやったら里穂ちゃんみたいに胸が大きくなれるの? 「うん? なんか言った?」 鏡越しに目が合ってハッと我に返った。 私はごまかすように愛想笑いを浮かべた。 「ううん、なんにも言ってないよ。それより早く着替えてきてね」 「うん」 歯を磨き始めた妹にそう言い、私はバスルームを後にする。 勉強のことも恋愛のことも体のことも、里穂ちゃんとは何でも隠さずにお話ができた。 でも、これだけは自分の心の中に仕舞い込んでいる――。 私が……お姉ちゃんが本気でおっぱいで悩んでいるということを。 駅に着いたのは7時40分だった。 私と里穂ちゃんは定期券で改札を通り、2番線の地下鉄ホームへと向かった。 どこの学校でも登校時間だから、周りを見れば色んな高校生がいる。 ケータイでメールをうっているコや友達とお話いているコ。MDを聴いている人もいれば、ひとりで電車を待つマジメそうな女のコもいる。もちろん、時間が時間だから、OLやオバサンや大学生もいるし、鞄を手にした整髪料臭いオジサンたちもいる。 「また混んでるのかな?」 私は言った。胸の大きい里穂ちゃんは、電車の中でよく痴漢に遭うのだ。混んでいるのは訊くまでもないけど、でもできれば里穂ちゃんを安全なところに乗せてあげたかった。 そう、たとえば女の人に囲まれるような場所に。 「たぶん……ってかゼッタイそうだよ。さっさと女性専用車つくればいいのに」 「ほんと」 やっぱり痴漢を警戒しているのだ。 そうこうするうちに、ゴトンゴトン……と大きな音を立てて電車がやってきた。一両目の車両が通り過ぎた途端、モワっとした熱気が伝わってくる。風でパンチラしないように両手でスカートを押さえつけた。そういう瞬間をデジカメとかで撮って、ネットで流しちゃう心無い人も世の中にはいるのだ。ああ……なんか女のコって危険がいっぱい。 ――キィィィッ。 ブレーキの音が鳴り響き、ドアが開く。 降りてきた人たちと入れ替わるように、私は満員電車に乗り込んだ。 それから私たちは吊革に掴まって電車に揺られた。 “聖ブレスト学園”に通う里穂ちゃんが3つ目の駅で降りて、私がそこからさらに2つ先の駅で降りる。お互いの友達が乗り合わせたりして話が弾むから、結構あっという間に時間が過ぎてゆくのだ。 「でね、ユカちゃんが部屋のドアを開けたら、弟とその茉莉絵さんって人が……」 「えっ、それってヤバくない?」 「ねっ? 里穂ちゃんもそう思うでしょ? でもね、実はその後の話があって」 「うんうん」 目の前の座席では、私服を着た女性が真剣な顔でメールをうっていた。その横ではくたびれたオジサンが鞄を膝に乗せ、うつらうつら居眠りしている。 「ユカちゃんは速攻で部屋を出て行こうとしたんだけど、茉莉絵さんが止めるから、」 「うん」 「結局その場に残ったんだって」 「うん……」 「で、“なんでそんな事してるんですか”ってユカちゃんが訊いたら、茉莉絵さんは」 「…………」 「ぜんぜん慌てたりなんかしないで、“見ての通り”って」 「…………泣」 「でも、ユカちゃんも弟のこと分かってたみたいで」 「…………」 ふと妹が怯えている気がした。 見ればイカツイ手が、背後から里穂ちゃんの胸を鷲掴みにしている。 (――っ!!) その途端、私は一瞬で沸点に達した。ムカッときて、無意識のうちに手が動いていた。 「痛っェっっ――!!」 痴漢の手を思いっきりつねってやる。普段は里穂ちゃんと痴漢の間に割って入るだけだけど、今日は頭にきた。どうしていつも里穂ちゃんを可哀想な目に遭わせるの!? オタクっぽいハゲデブの男を、私は真正面から睨みつけた。 「すいませんけどっ、どさくさに紛れて妹の胸触らないでくださいっ(怒)」 車両いっぱいに響く声で叫んだ。 周りにいた人がざわめいている。誰かが取り押さえようと人込みを掻き分けてきた。 そうだ、そのまま捕まっちゃえ。 「里穂ちゃんっ。この車両、ハゲの痴漢が出るから別の場所に移ろうっ」 「うん」 と頷く妹の手を取って、私は後ろの車両へと突き進んで行った。 どんどん前に進んで行く私の手を、妹がぎゅっと力を込めて握ってくる。 ――大丈夫……怖がらなくていいから。 里穂ちゃんのことは、お姉ちゃんがずっと守っててあげる。 (続けて後編をお読み下さい) |