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 ▼虚空の恋人 〜プロローグ〜  ジョバイロ 07/4/9(月) 11:43
   ┗初投稿です  ジョバイロ 07/4/9(月) 11:49

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 ■題名 : 虚空の恋人 〜プロローグ〜
 ■名前 : ジョバイロ
 ■日付 : 07/4/9(月) 11:43
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   虚空の恋人 〜プロローグ〜

 現実とは何か?
 スモッグに汚れたチバシティに足を踏み入れてから、俺はそんな哲学的思索に興じていた。
 たまには、いいものだ。この町は、現実と仮想が錯綜しているのだから。
 最新の仮想現実装置(VRシステム)である「カッサンドラ」が、町の盛り場に散在していた。仮想現実のテクノロジィは、二十二世紀になってから急速に発展した。医学的な脳研究と、心理学的な知覚研究、そして、それを仮想空間に再現するためのAI研究の賜物らしい。
 まあ、俺には難しいことはわからない。ただ、己の欲望のために利用したいだけ。合法違法を問わず四方に手を回し、チバシティにある仮想現実クラブ(VRC)の予約をした。
 VRCでは夢が現実になる。否、正確には夢が仮想現実になる。どんな欲望でも叶える夢の店……。世界的に見ても数が少ない「カッサンドラ」を利用して、客の要望に応えるサービス業と表現してもいいかもしれない。
 仮想が現実に限りなく近付く。あるいは、仮想と現実の世界がほぼ等号で結ばれる。ギリシャ神話の予言者に由来する「カッサンドラ」という名は、ある意味二十一世紀の科学者の予言を再現する形になった。
 なぜ、そんな貴重な「カッサンドラ」がチバシティにあるのか。そんなのは愚問だ。VRテクノロジィは、チバシティを中心に世界に流通しているのだから。公では、民間での使用許可は出ていないのだが、一歩裏通りに足を踏み込むと無法地帯。
 政府も大衆の不満を和らげるために、黙認しているようだ。聞くところによると、政府側の人間はVRCで優先的に予約できるとも噂されている。全く、だから俺みたいな一般人は予約を取るだけでも骨が折れる。向こう十年予約で一杯だなんて、誰が待っていられる? 少しぐらい、金持ちの老人を脅したところで文句は言われないだろう。
 VRCの客は、様々な欲望を満たすために訪れる。
 たとえば、仮想空間で上司を殺し続ける会社員。現実ではないから罪にならないし、生き返らせることで何度も罰を与えることができる。
 たとえば、仮想空間で何度も自殺をする中学生。現実を否定する仮想現実の中で、さらに自らの命をも否定する。そんな不毛な連鎖こそが、中学生の望むことなのだろう。
 そして、もっとも多いのが性の欲望であろう。
 老いも若きも、男も女も。本当に満足できる性生活など送ることはできない。何か物足りない、もっと、もっと、もっと……。いくら考えても、リアルでは実現が不可能な性の悩み。VRCでは、童貞であろうが不能であろうが、自分の好きな相手と、自分の好きな場所でセックスができる。
 全てが、現実と変わらない仮想。
『現実と同じように五感で感じることができ、現実以上の快感が脳髄を痺れさせる』
 VRCのキャッチコピィである。客の大半が性的願望のために来るので、需要に沿った売り文句であろう。俺も、その他大勢と同じである。
 「カッサンドラ」の劣化版である「アンドロマケ」を使用したことがあるが、それでも現実と同等の快感を得ることはできた。しかし、現実感がない。いくらリアルに見えて、いくらリアルに感じることができても、これは仮想なんだと冷めた目で観察している自分がいた。
 その点、「カッサンドラ」は大きく違う。バージョンを重ねる度に洗練されていった現実感(クオリア)が、遂にリアルのレベルに達したのである。これは、細かいようで驚異的な変更である。
 簡単に言い換えれば、一度仮想空間に入ってしまえば、外部から干渉されるまで現実と仮想の区別がつかなくなる。それ故、脳にかかる負担は大きく、一時間を越える使用には危険が伴うとも言われている。
 危険を承知で予約者が後を絶たないのは、極まった現実感を体験したいからである。現実の性に満足できない者が、仮想の性で欲求を解消することは難しい。現実と同じ経験をしなければ、意味がない。現実と変わらぬ体験を、仮想で体験するというパラドックス。それを科学が克服したのだ。
 さあ、もうつまらない思考は中止しなければ。
 薄汚い十九世紀調のウエスタンドアの前で、俺は足を止めた。
 木製の看板には『VRC! Dreams Come Real』と書かれている。
 ハイテクとは程遠い装飾は、店長の趣味なのだろう。自分も嫌いではない。俺の部屋には、二十世紀で使われたセンプウキやコタツという骨董品が置いてある。もちろん、使ったことはないが。
 店に入ると、妖しげなピンクのライトが辺りを照らしていた。所々には、二十世紀のアンティークが並べられている。入り口にあった金貨を抱えた猫は、何かのまじないであろうか? 中には値打ち物の骨董品もあるのだろうが、俺には真贋を見極めることはできない。
 物が乱雑して動きにくい通路を進んでいくと、広い部屋に出た。円形の広場のようになっていて、真ん中には受け付けらしいカウンタが見える。何より目を引いたのが、部屋の周りに並んだ多数のカプセルである。カプセルは高さが二メートルほどあり、おびただしい数のコードで天井と繋がれている。ほとんどのカプセルに人が入っていることを考えても、あれが「カッサンドラ」なのであろう。
 異様な光景に戸惑いながらも、カウンタへと向かう。受け付けにいたのは、胸元が大きく開いた銀色のボディスーツを着ている女性であった。緑色のショートヘアに赤い瞳。未来的、という雰囲気を見事に表現している。白い胸の谷間に目を奪われながら、俺は話しかけた。
「あの、予約している者で……」
「はい、本日はどのようなプレイをお望みですか?」
 極端に事務的な口調で女が答えた。どうやら、精密なアンドロイドらしい。外見からは判断できないが、機械合成の独特の声はごまかせない。
「えっと、本人の確認は?」俺は気になったことを尋ねた。
「はい、確認は入り口にある招き猫によって行われています。網膜スキャンによってです」
 マネキネコとは、あの金貨を抱いた猫のことだろう。もしかしたら、その他の骨董品の中にも仕掛けが施されていたのかもしれない。
 女アンドロイドは俺の目を見て言った。
「本日はどのようなプレイをお望みですか? なるべく正確な資料や設定があった方が、よりお客様の理想に近くなります。要望がない場合は、割安の自動設定になりますがよろしいですか?」
「あっ、ちょっと待ってくれ。ちゃんと考えてきてるんだ」
 そう、この日のために俺は準備してきた。
 金が余分にかかろうとも、予約が難しいVRCを最大限に利用しなければ勿体ない。煩悩の塊である俺にとって、一つのシチュエーションを選ぶというのは想像以上に難航した。
「お客様は、巨乳が好きなのですか?」
 女アンドロイドは前屈みになり、胸の谷間を見せつけた。そして、両手で自分の胸をゆっくりと撫で回す。機械だと考えられないような、柔らかそうな白い乳房。あそこに顔を埋めたい。そして……。思わず、生唾を飲むのを我慢する。
「そ、そうだけど……、どうして?」
「ジョークです。顔よりも先に胸を見たお客様には、そうやってからかうように店長にプログラムされています」
 ますます、俺と気の合いそうな店長だと思ったが、少し動揺してしまった。機械に見破られるほど、自分は巨乳好きであるという雰囲気を帯びているのではと心配したからだ。
 巨乳。
 どうして自分が惹かれるのか、どうして自分が求めるのか。その理由はわからないが、女性の大きなバストには説明不要の引力がある。こんな考えは馬鹿みたいだと思う男がいるなら、そいつは俺とは飲みに行けないだろう。アルコールが入ると、巨乳談義に華を開かせるのが俺という人間なのである。
「俺が望むのは……」
 この日のために練りに練った、自分の要望を口にした。
 仮想現実の中で結ばれる、束の間の女性。
 虚空の恋人として俺が選んだのは、現実では叶わない性の対象であった。

 ───────────────────────────────────────  ■題名 : 初投稿です  ■名前 : ジョバイロ  ■日付 : 07/4/9(月) 11:49  -------------------------------------------------------------------------
   どうも、趣味で細々と小説を書いている若造です。
性描写を含む作品は初めてですが、妄想を炸裂させながら頑張りました。
ここの掲示板には小説の投稿が少ないので、軽く不安なのですが……。
ともかく、処女作となるこの作品は、プロローグ以降三つに分岐します。

第一のコース:実の妹
第二のコース:グラビアアイドル
第三のコース:空想の女性

下に行くにつれて、ストーリィ性が薄くなっているような。
まあ、ドンマイ。エロとストーリィのバランスが難しいというのを痛感。
気になったら読んでくださいな。

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