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 ▼天使の軌跡 if II  Angel Heart 05/1/29(土) 1:09

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 ■題名 : 天使の軌跡 if II
 ■名前 : Angel Heart
 ■日付 : 05/1/29(土) 1:09
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                                  (ピッ)

               「金髪英語教師Jenny」

 ジェニー先生に正直な想いを伝えたのは、センター試験が終わった次の日の事だった。
 それまで受験優先で先生のことは考えないようにしていたのだけれど、粉雪のように降り積もる想いは抑えることができず、勇気を出してメールをうってみたのだ。上手くいったら勉強の追い風になるし、ダメでも吹っ切れて受験に集中できると思ったからだ。
 送ったメールは拙い英語。間違いなく読めたものじゃなかった。でも想いは伝わると信じていた。なぜって、恋愛には年齢も言葉も国境も関係ないのだから。
 Jennifer. A. Heart. ――通称Jenny先生。27歳になる金髪のAETが、僕の想いを受け止めてくれるかどうか、それは二次試験を間近に控えた僕の、もうひとつの合格発表だった――。

                   ※

“I believe that you can pass the examination if only you do your best.”
(全力を尽くせばきっと合格できるって、先生、信じてるわ)
“So, I give you my favorite word as last message of my class.”
(だから最後の授業の締めくくりとして、私の好きな言葉をプレゼントするわね)
“Heaven helps those who help themselves……Do you know that?”
(天は自ら助くるものを助く……分かるかしら?)

 ジェニー先生の問いに、僕は大きく頷いていた。センター試験が終わってから一週間、二次の応答試験のためにずっとジェニー先生の補習を受けてきたのだ。意味不明だった初めの頃に比べ、コミュニケーション能力が格段に上がっている。先生が話すことの大半が、僕の頭の中で瞬時に翻訳されていた。

“Yes, of course.”
“Good. I wish you the best luck.”
(幸運を祈ってるわ)

 ジェニー先生は嬉しそうに微笑み、右手の中指と人差し指を交差させた。たぶん二次は合格できる、と僕は直感した。
 先生がヘアバンドを外し、ブロンドの長い髪をセクシーに振りほどく。その何気ない仕種に僕はどきっとした。白いタートルネックにフリンジのスカート。黒い網タイツが似合うのは先生が大人だからだろうか。誰もいない放課後の教室で、僕は憧れの金髪英語教師と二人きりだった。

“Well, my class is over……So, now I change from a teacher to a lady.”
(さて……授業が終わったから、今からは先生じゃなくプライベートな女性になるわね)
「…………」
“I received your E-mail and was really happy when I read it.”
(メール……ちゃんと受け取ったわ。先生、とっても嬉しかった)

 ジェニー先生の言葉に、僕はついにその瞬間が来たのだと悟った。告白メールを送ってからというもの、先生は焦らすようにその話題には触れてくれなかったのだ。メールが届いたのかどうか、それすらも心配になるほどだった。
 でもメールはちゃんと届いていた。先生はそれを読んでくれていた。

“I have also loved you since I came to this school.”
(先生もこの学校に赴任してから、ずっとアナタのことを愛してたわ)
“Is that sure?”
(本当ですか?)
“Yes……as one of my student.”
(ええ、教え子のひとりとしてね)
「…………」
“But I’m very sorry. I can’t respond to your heart.”
(でもごめんなさい。アナタの気持ちには答えてあげられないの)

 その瞬間、僕の中で桜が散った。やはり両想いになるのは幻想だった。想いを伝えるのが唐突過ぎたのだ。
 でもなぜか落ち込むことはなかった。むしろ晴々としていた。たぶん、告白せずに卒業した方が後悔していたかも知れない。
 すぐ傍に歩み寄ってきたジェニー先生が、真っ直ぐに僕を見つめた。

“Though this is secret, but I tell you. Don’t reveal it to anybody.”
(これはまだ内緒の事なんだけど、アナタにだけ教えてあげる。秘密は守ってね)

 ジェニー先生の真剣な表情に、僕はふと嫌な予感を感じた。

“I’ll go back to Canada next month without seeing your result.”
(来月、アナタの合格発表を見る前に帰国することになったの)
“W, Why ? Why you go back !?    ”
(どうして……どうして帰っちゃうんですか!?)
“Because very very important jobs are waiting for me.”
(お仕事だからよ。とってもとっても大切なお仕事が先生を待ってるの)
“What kind of jobs are waiting ?”
(どんなお仕事が!?)
“Sorry……I cannot answer the question. But I never forget you and……”
(ごめんね、それは答えられないの。でもアナタのことは忘れない。そして……)

 チュっと、ジェニー先生が僕の頬にキスをした。

“Thank you for giving me a lot of memories. I really love Japan.”
(たくさんの思い出をありがとう。先生、日本に来て本当に良かったと思ってる)
「…………」
 僕は無言のままジェニー先生から目を逸らした。正直、少しだけ怒っていた。
 こんな卑怯なことがあるかよ。僕を振っただけでなく、合格発表すら待たずに帰国するなんて。
 想いが通じなかったのはいい、べつに構わない。でも発表だけは見て欲しかった。先生を信じてずっと頑張ってきたんだから。これじゃ自分が哀れ過ぎるよ。僕は先生が大好きなんだ。愛している人に「おめでとう」って言って欲しいじゃないか……。

“What’s wrong?”

 視線を逸らす僕に向かって、ジェニー先生が心配そうに言った。
 僕は憤りに任せて呟いた。

“Only kiss? The memory that you give me is just only kiss?”
(キスだけなんですか? 先生が僕にくれる思い出って、キスだけなんですか?)
“What?”
“I want to memory that impresses me. Because I love you so much.”
(僕のなかでずっと記憶に残る思い出が欲しいんです。先生のことが大好きだから)

 ジェニー先生は途惑うように僕を見つめていた。でもその表情を緩めると、やがて分かったわ……と、僕の気持ちを受け止めてくれるように囁いたのだった。

“Maybe the god doesn’t allow me, but you’re especially.”
(こんなことはきっと神様は許してくれないだろうけど、でもアナタは特別だから……)
「あ……」
 ジェニー先生が唇を重ねてきた。柔らかくていい香りがした。


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