Page 619 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 通常モードに戻る ┃ INDEX ┃ ≪前へ │ 次へ≫ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼若い肉陵 ライジング・サン 05/1/20(木) 2:53 ─────────────────────────────────────── ■題名 : 若い肉陵 ■名前 : ライジング・サン ■日付 : 05/1/20(木) 2:53 -------------------------------------------------------------------------
時計は午後9時を回ろうとしている。「全くどいつもコイツも使えねぇな〜!…」 誰も居ないオフィスに私の独り言が響く。 テレビのドラマじゃないが、私のいる課は会社で「ゴミ箱」と呼ばれている程、 役に立たない社員の掃き溜めだ。つまりリストラ予備軍の場所である。 まぁ、そこの課長が私なのだが幸いにもまだリストラは言い渡されていない。 と言うか私がリストラの最終判断をする為にこの課に配属されたのだが・・・ そんな課にも仕事はちゃんとある。だがそんな社員ばかりなので当然仕事が片付かない 訳で、その仕事が課長である私に全て来てしまう。そして御多分に漏れず今日も金に ならない残業となって先ほどの独り言が出てしまっていると言う訳だ。 誤字・脱字だらけの書類に目を通しPCで一人、仕事をしていると誰かがオフィスに入って 来る音がした。清掃員が来る時間には早いな・・・と思い、ふと視線をドアの方に 向けると去年中途採用で入った女子社員の真里子が立っていた。 「課長、今日も残業ですか?」そう言うと真里子は私のデスクに向かって歩いて来た。 「あぁ、でもいつもの事だ。所で真里子君はどうしたんだい?こんな時間に…」 「私、デスクに携帯を忘れてしまって、それで取りに戻ったんです」そう言いながら 私の前を通り過ぎて自分のデスクまで行くと引き出しを開けて携帯を探しはじめた。 真里子は本来この課に居るような人材では無いのだが、配属されるはずの課に空きが 無くなり取り合えずこの課に配属になった訳だ。 「課長はいつも大変ですね。どうぞ」とデスクに私の湯呑を置いた。それには湯気の たったお茶がみたされていた。先ほどまでデスクで携帯を探していたと思ったら 知らぬ間に給湯室に行ってお茶を入れて来てくれたのだ。 「あ、がりがとう。所で携帯は見付かったのかい?」と言う私に 「はい。」と言ってカラフルなストラップの付いた携帯を笑顔の横に出して見せた。 そして「課長はまだお仕事終わらないのですか?」とPCの画面を覗き込んだ。 「そうだな〜・・・今日はあと少ししたらキリが付くかな?」と言うと 「それじゃ終わったら少しお時間頂けませんか?お話したい事があって・・・」 「良いけど・・・大丈夫なのかい?10時過ぎるよ?」 「大丈夫です。私の家はココからタクシーでも20分位で帰れますから」 「分かった。それじゃ少し待っててくれるかい?直に終わらせるから」 「はい。お待ちしています。」そう言うと真里子は私の前のデスクに座って携帯を いじり始めた。 仕事を片付けて会社を出た私達は駅近くのショット・バーに入った。 元来、アルコールが全くダメな上に今日はクライアントとの打ち合わせの為、 自分の車で来ていたので私はノン・アルコールのソフトドリンク、真里子は度数の強い カクテルをそれぞれバーテンダーに注文した。 「課長、私、課でなんて呼ばれているか御存知ですか?」と彼女が切り出してきた。 「みんな真里子君て呼んでいるんだろ?違うのかい?」 「それは表向きです。裏では別の呼ばれ方をされているんです」 「そうなんだ。何て呼ばれているんだい?」 「・・・土偶ちゃんて呼ばれています」 思わず(ぷっ)と吹き出してしまいそうになってしまった。確かにデフォルメした イメージは真里子とかなり重なる上手い表現だ。体形的にも全体に丸くてズングリした あの土偶を彷彿させる。だが彼女の真剣な表情を見たら笑ってオチャラケル雰囲気では 無かった。それに決定的な違いは真里子の方がはるかに胸が豊かだと言う事だ。 「そうなんだ。でも気にする事も無いんじゃないかな。言わせて置けば良い」 「はい。でも・・・」 「でも?」 「この事を彼に言ったら大笑いされて・・・それ以来、彼も私の事をそう呼ぶように なって・・・その事がキッカケで最近、彼とも上手くいってないんです」 正直、本人には悪いがそんな事で一々相談に乗っていられない。マヌケな社員の尻拭い に今度は恋愛の相談・・・オマケに「土偶ちゃん」と来たもんだ。背中から腰にかけて 一気に疲れがのしかかって来る感じがしたのは言うまでも無い。 「そうなんだ。それでどうするつもりなんだい?」こんな話はとっとと終わらせて 風呂に入ってベットに潜り込みたい心境だ。 「はい。色々と考えたのですが、彼とは別れるつもりです。」 「そうか。真里子君がそう決断したのなら私は何も言う事必要は無いようだね」 「・・・」 この時点で、すでに私の心は帰路に付いている。 「済みません。もう少しだけお付き合い下さい。少しお酒が飲みたい心境なので」 俺は風呂に入りたい心境なんだよ!どぐう〜!と言う感情は微塵も出さずに 「分かった。でも余り飲み過ぎるなよ」 「済みません。課長・・・」 1時間後、思いの他重い真里子を抱えながら会社が借りている駐車場に停めてある 自分の車へと辿り着いた。 車の助手席に真里子を座らせて、近くにある自販機でスポーツドリンクを2本買って 車へと戻った。 「ほら、喉が渇いたら飲むと良い」と言って真里子に1本手渡した。 彼女の住所を聞き、カーナビで検索した。確かに彼女が言うように20分位の距離だが 私の家とは完全に逆方向。(プルプルプル・・・) なんで俺がオマエを送らなきゃなんねーんだよ!と言う気持ちをスポーツドリンクで 飲み込み、車を発進させた。 「済みません。課長・・・こんなに酔うつもりじゃなかったのですが・・・」 あれだけ飲み過ぎるなって言って置いただろ!テメーはよ!とは言わず、 「まぁ、そんな時もあるよ。でも今日だけにしてくれよ。ハハハッ」 「・・・・・」 「ん?真里子君・・・あれ・・・」 「すー・・・すー・・・」 おいおい!返事もしねーうちに寝るんじゃねーよ! つづく |