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 ▼Busty Christmas 〜第一章〜  Angel Heart 04/12/24(金) 16:55

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 ■題名 : Busty Christmas 〜第一章〜
 ■名前 : Angel Heart
 ■日付 : 04/12/24(金) 16:55
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「ねぇ。琢也くんって、クリスマスに予定とかあるの?」
「えっ?」
「ク・リ・ス・マ・ス。例えば彼女とデートとか、お友達と一緒に遊びに出掛けるとか」
 唐突に投げられた質問に、ボクは一瞬、言葉を詰まらせてしまった。クリスマスの話題を振ってくれたらいいな……とは期待していたけれど、まさか本当になるとは夢にも思ってもいなかったからだ。夕べ、ベッドのなかで考えたシナリオが、せっかくのチャンスなのにセリフとなって出てこない。
「無いの?」
 沙弓さんが言う。聖フォレスト女学院大学の国際関係学部に通う、21歳の女子大生だ。家庭教師として、週に二日、ボクに数学と英語を教えてくれていた。
「な、ないですよ、予定なんか」
 ボクは答えた。練り上げたセリフどころか吾ながら強がった口調だった。本当は沙弓さんと聖夜を過ごしたい。だからデートに誘う筋書きまで考えたのに……。
「ほんとに?」
「ほんとです」
 心の底まで見透かすような視線に、ボクは思わず目を逸らしてしまった。沙弓さんに見つめられると、ボクの心臓はどうしようもないほどに高鳴る。シャンプーの香りを漂わせる長い髪にデニムのスカート。胸元には銀色のネックレスが輝いている。憧れの女子大生に見つめられて、まともに視線を合わせられる童貞がどこにいるのだろう。

「そっか。予定ないんだ」
「…………」
 沙弓さんが虚空を見つめた。沈黙が時間を止めた。『先生は予定あるんですか?』――どうしてそんな簡単なセリフが出てこないんだろう。クリスマスは一年に一度きり。今この時のチャンスを逃せば先生と聖夜を過ごせないのに……。

「だったらさ」「あの」

 やがて思い切って口を開くと、ふと先生の言葉と交錯した。それが可笑しくてボクと先生の顔が綻んだ。
「なぁに?」
「あ、いや……先生から」
 沙弓さんがほんの少しだけ間を置く。
「だったらさ、クリスマスイヴの日、私のアパートに遊びに来ない?」
「ええっ?」
「私も予定が無いんだけど、せっかくのクリスマスに独りでいるんじゃ、やっぱり寂しいでしょ? だから、もし良かったら琢也くんと一緒に楽しく過ごせたらなぁって(笑)」
「…………」
 ノートに並ぶ数式の羅列が、ボクの頭を素通りして行った。まさか先生の方から誘ってくれるなんて。

「ダメ?」
 先生がボクの顔を覗きこむ。心なしかその頬が紅潮しているように思えた。
 もちろん、ボクに断る理由なんてこれっぽっちもない。
「ダメなんて、そんな……。OKです、ぜんぜん大丈夫です」
「良かったァ」
 沙弓さんが嬉しそうに手を合わせた。そうして、バッグから携帯を取り出すと、ボクと過ごすことになったクリスマスを予定として記憶する。音符で装飾されてゆく文字が、ボクの期待を煽った。
(ひょっとして、先生もボクのことを……)
 そう思う。そう思う一方で、冷静に否定する自分もいた。
(そんなハズないか。先生はボクのことなんか……)
 沙弓さんは女子大生。容姿も性格も「きれい」と言える人で、女神や聖母に喩えたって言い過ぎではなかった。寧ろ彼氏の一人や二人がいるのが当然だった。
 それに比べてボクは、総てにおいて標準以下のお子様ランチだ。背の順に並べばイチバン前。テストを受ければ微妙な偏差値を取る。かと言って運動ができるわけでもないし、身体だって華奢で色白だ。まぁ、生まれつき病弱だから仕方ないんだけど、これと言って秀でた才能が無いのが長所であり短所だった。こんな容姿で得したことと言えば、去年まで小学生料金でバスに乗れたことぐらいだ。

 そんなボクだから、沙弓さんと両思いになるのは幻想だと分かっていた。恋愛に年の差は関係ない、というのが一般論だとしても、先生が同じ考えだとは限らない。たぶん先生にとってボクは、良くて弟みたいな存在、悪くて単なる教え子だろう。クリスマスに誘ってくれたのも、単純に独りで過ごすのが淋しいからだ。彼氏だとか彼女だとか、そんな恋愛感情なんてきっと……。

「どうしたの? ぼんやりして」
「えっ?」
 ふと吾に返ると、いつの間にか先生が携帯をしまっていた。寝顔を見られたみたいでちょっと恥ずかしかった。
「今、別の世界に行ってたでしょ(笑)」
「そ、そうですか?」
「うん。なんか真剣な顔だったよ」
「…………」
「――で、琢也くんは?」
「?」
「私になにか言おうと思ってかぶったじゃない」
「ああ……それなら」
 なんでもないです、とボクは答えた。沙弓さんと一緒にクリスマスを過ごせることになった今、ボクからデートに誘う必要がなくなったからだ。公園で光のページェントを見るだとか、星空のもとで告白するだとか、考えてみれば鳥肌が立ってくる。ベッドのなかで考えたシナリオは却下だ。
「雪、降るといいね」
 沙弓さんがそう呟いたとき、母親が休憩のお茶を持ってきた。


                 ※

 ……次の日。ボクはおこづかいを手にクリスマスプレゼントを買いに出掛けた。
 先生が喜んでくれるかどうか、それはボクにも分からなかった。


                 †

 12月24日、クリスマスイヴ――。
 救世主にして神の子である彼が、ナザレの町で生を享けた前の日。
 ボクは期待に胸を膨らませながら、独り沙弓さんのアパートに向かって歩いていた。
 町は聖なる日を共に祝うかのように、朝から降り積もる雪で銀色に輝いている。日はすっかり暮れているけれど、家々に飾られたクリスマスツリーの電球が、清らかに、そして暖かく辺りを照らし出すのだ。見慣れているはずの景色が、今日はなぜか違う世界のように思えた。

 ――ピンポーン。

 目指すアパートに辿り着くと、ボクは102号室の呼び鈴を押した。住宅街の一角にある、大学生用のアパート。沙弓さんの家だ。家族には、先生に勉強を教えてもらってくる、と嘘をついて出てきた。
「はい?」
 インターフォンの向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 ボクが名乗ると、沙弓さんの口調に安堵感がこもった。
「あ、琢也くん? 今開けるから、ちょっと待っててね」
 ガチャガチャとチェーンロックを外す音。
 そしてドアが開き、暖かい空気を感じ取った途端――。

 パンっ、パン、パパンっ!
「うわぁっ!?」
 派手な破裂音とともになにかが降りそそいだ。
 見れば、沙弓さんと見知らぬお姉さんたちが、ボクに向かってパーティ用のクラッカーを放っていた。

「メリークリスマス!」「メリークリスマス!」「メリークリスマス!」

「…………」
 呆然と立ちつくすボク。沙弓さんがアハハと笑った。
「ごめんね、ビックリした?」
「う、うん、ちょっとだけ」
 すると見知らぬお姉さんのうちのひとりが言った。
「このコが沙弓の言ってた琢也くん?」
「そう。――あ、そっか。初対面だもんね」
 言って沙弓さんが二人のお姉さんを紹介してくれた。
 ひとりは須山まどかさん、24歳。沙弓さんが通っている聖フォレスト女学院の大学院生だ。なんだかホステスっぽいけれど、でも知的な雰囲気も兼ね備えている。黒いフリンジのスカートにグレーのセーターがオトナっぽい。お姉さんと言うか、お姉様だ。
 もうひとりは鹿嶋咲さん、18歳。沙弓さんのもうひとりの教え子だ。制服に白いセーター姿だから人目で女子高生と分かる。セミロングの茶髪にあどけない顔立ちがキュートだ。こちらはお姉様ではなく、お姉たん。

「よろしくね♪」
 チュ――☆ と、咲さんがボクに投げキッスする。どきんっ、と心臓が高鳴った。
(な、なんだ、沙弓さんと二人っきりじゃなかったんだ)
 今更ながら誤解に気がついた。ちょっと残念だったけど、でも三人のお姉さんに囲まれるのは嬉しいかも知れない。
「フフ、『琢也くんはウットリしている!』って感じね」
「え?」
「投げキッス。咲ちゃん、こんどはセクシービームも放っちゃうかもよ」
「…………」
「んもうっ、まどかさんってば、琢也くんは受験生なんだからゲームなんかやらないの」
「あら、そうなの?」
 ええっと、“ベルガラックでかぶりつき”なんてぜんぜん知りません。

「ご対面が済んだところでなかに入ろっか。お料理もできてるから」
 沙弓さんがボクを招き入れた。
 初めてお邪魔する先生のアパート。それだけで感動だった。
 フローリングの広い部屋には、机や書棚が並び、まるで沙弓さんの人柄を表すようにきれいに整理されていた。ベッドに置かれたスヌーピーのぬいぐるみが、幸せそうに微笑んで見えるのはきっと気のせいじゃない。なぜなら、飼い主が優しい人なのだから。

「座って」
 沙弓さんに言われ、ボクは空いている座布団に腰をおろした。ちょうどベッドを背凭れにする位置だ。脱いだコートは先生がハンガーに掛けてくれる。こたつの上にはデリバリーのピザ、サーモンのマリネ、チーズフォンデュ、ケーキが並んでいた。もちろん、お酒とジュースも一通り揃っている。ボクと沙弓さんが向かい合い、まどかさんと咲さんが向かい合って座った。
「ねぇねぇ、早くカンパイしようよォ」
 咲さんがおねだりする。いつの間にか頭にサンタクロースの帽子を被っていた。
「はいはい」
 子供を宥めるような口調で答えると、沙弓さんがみんなにグラスを渡した。もちろん、乾杯の飲み物はシャンパンだ。まどかさんが天井に向け、封を切る――。

 ――シュポンッ!

 勢い良く飛び出した栓が、天井に跳ね返って咲さんに命中した。
「えぇぇ〜んん(泣)」
 泣き真似する咲さん。それが可笑しくてみんな大笑いした。 
 楽しかった。
 一年に一度の聖なる夜に、ボクは素敵な思い出がつくれそうな気がした。


                     〜Merry X’mas and to be continued〜

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