Page 1886 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 通常モードに戻る ┃ INDEX ┃ ≪前へ │ 次へ≫ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼乙女のプライド〜第一章〜 Angel Heart 11/10/21(金) 1:21 ─────────────────────────────────────── ■題名 : 乙女のプライド〜第一章〜 ■名前 : Angel Heart ■日付 : 11/10/21(金) 1:21 -------------------------------------------------------------------------
「ね――聖羅様。あの女、このまま放っておいても大丈夫なんですか?」 「大丈夫って、なにが?」 「ですからあの教育実習の女ですよ。ちょっと男子に人気があるからって調子に乗ってません? 給食は班ごとに食べなくちゃいけないのに、勝手に席替えなんかしちゃったりして。あれじゃ合コンじゃないですか。王様ゲームなんかも始めちゃってるし」 すっかり景色が秋めいてきたその日の昼食時間、私が親友達と机を向かい合わせて給食を食べていると、ふと佐伯真理奈がそうささやいてきた。揚げパンを口に運ぶ手を止め、内緒話するように身を乗り出してきたのである。 「べつに気にすることないわよ。どうせ来週になったらいなくなる女なんだし。小学生の男子相手にはしゃいでる女なんか、なんで私が気にしなくちゃいけないの」 「でもこのままじゃ、せっかく聖羅様のお爺様が築いてこられた聖ブレスト学園の風紀が乱されてしまうじゃないですか。ここはひとつ、聖羅様からあの女に警告を出された方がよろしいかと思いますけど」 視界の向こうでは、話題に上っているいけ好かない実習生――松井華穂とかいう女子大生が騒いでいるところだった。男子に囲まれてきゃあきゃあとわめいている。 「警告って言ってもサッカーみたいに累積二回で退場命令出せるわけでもないし、やっても無駄よ。第一、あんな精神年齢が低い女、まともに相手すること自体願い下げだわ。こっちのレベルまで下がるもの」 ガキ大生の相手はガキ男子に任せていればいい。なんでこの私が幼稚な女に付き合わなくちゃいけないのだ。 「それはそうですけど、やっぱり学園の秩序を保つためにも聖羅様から一言釘を刺されておいた方が――。理事長様を通して、あんたの醜態を大学部長に報告するとかなんとか言って」 「あの女も聖ブレスト学園大の学生なの?」 と、私は訊いた。 答えたのは京子だ。 「違うと思います。確か大学部の方から来た実習生はみんな初等部4年と5年のクラスに入っていますから。華穂先生はええっと、杜ヶ峰教育大学だったかな?」 「ブレスト学園の系統じゃないならお爺様の名前を出しても効かないわね。系列学校の人間だったらたとえ教員であってもひれ伏すんだけど」 聖ブレスト学園の創立者であり理事長でもある西九条兵衛輔が私の祖父だ。小さいけど強いこの国を牽引する人材を育てるため、初等部から大学部までが連なる名門学園をたった一代で築き上げた。 もちろん、学校中の誰もが、私がお爺様の孫娘であることを知っている。 「まぁなんにせよ、あんな幼稚な女なんか放っておいても平気よ。どうせクソみたいな授業したんだもの、大学に授業アンケート結果持って帰れば留年決定だってば。教師になんか永遠になれっこないわ」 そう私が鼻で笑うと、さっきから黙って聞いていた悟くんが口を開いた。みんなにこき使われることが日課の、華奢で銀縁メガネをかけた学級委員長である。 「それが……」 「うん?」 「華穂先生、実は賄賂使って授業アンケートの評価票集めてるんだ。男子と担任の池田先生から高評価もらえるように、先週の終わりくらいからずっと」 「賄賂って?」 みんなの視線が一斉に悟くんに向いた。 相変わらず、低脳な実習生は奇声を上げて王様ゲームに熱中している。 「色仕掛け……。男子には服の上からおっぱい触らせてあげて、独身の池田先生には毎日手作り弁当を作ってあげて――。そうやってアンケート結果良くしてもらえるように密約を取り付けてあるんだ。ボクも華穂先生に誘われたんだけど、そういうことには応じられませんって断ったんだよ……。だって華穂先生の将来を決めるアンケートなのに、賄賂なんかで事実を曲げたら先生のためにならないじゃないか。正直言って華穂先生のおっぱいは触りたかったけど、ボクは……ボクは……」 悟くんがうつむく。 真面目か! と突っ込みたくなったけれど、あえて私はその言葉を飲み込んだ。現役女子大生の色香に負けた男子が多いなかで、やっぱり悟くんは悟くんだったのだ。この実直さが女子に嫌われない理由だ。 真理奈達が眉をひそめる。 「最低。あんなショボい授業したくせに女の武器使って評価改ざんするなんて。授業アンケートって言ったら、実習生が大学に戻った時に成績決定の査定資料になるやつでしょ? それなのに賄賂とかって――。マジあり得ない。この学校ナメてる」 私も同感だ。 秋穂が悟くんを見た。 「あの女の色仕掛けに乗った男子って誰なの? まだ全員じゃないんでしょ?」 「うん……。ボクと武志くんと井原くんは断ったんだけど、でもあとはほぼ全員ハニートラップに引っ掛かってると思う。特に隼人くんと槙野くんは華穂先生の虜かな。ふたりとも暇さえあれば華穂先生におっぱい揉ませてもらってるみたいだから」 「えっ!? 隼人くんが!?」 少し声が大きかったのか、王様ゲームの輪から離れて給食を食べていた隼人くんが一瞬だけこちらを向いた。クールなスポーツマンだと思ってたのに、私の知らないところでそんなことをしていたとは。 みんな慌てて声をひそめた。 「隼人くんだけはそういう誘いに乗る人じゃないと思ってたのに、やっぱり隼人くんもただの男だったんだ。槙野くんはまぁ、元々ああいう性格だから分からなくもないけど」 真理奈達が王様ゲームの会場を振り向く。 お調子者でエロリーダーの槙野くんが、ガキ大生に抱きつかれて喜んでいた。給食時間も残り少なく、いよいよ合コンまがいも佳境に入ってきたみたいだ。 「これはあれですね――。やっぱりあの女には制裁が必要ですよ。このまま放っておいたら学園の風紀が乱されるどころか、隼人くんが取られちゃいますから。聖羅様はそれでもなにもしないおつもりなんですか? 片想いの男の子が寝取られようとしてるのに」 「そんなわけないじゃない」 私は手にした牛乳パックを握りつぶした。嫉妬心と敵対心が芽生え始めていた。 「あんな女なんか……お爺様に頼まなくても私が追い払ってやるわ」 恋敵と分かった相手なら、寛大さより先にプライドが優先する。 「そうこなくちゃ」 低脳女に反目する親友達が、満足げに笑みを浮かべた。 「じゃあ順番に測定するから並んで。相原さんから佐伯さんまでが身長と体重、篠田さんから新山さんまでが胸囲、残りの7人は座高ね。記録カードはそれぞれの係りが記入するからちゃんと開いて渡すこと。いい? 分かった?」 「は〜い」 ガキ大生への制裁を決めた翌々日、私達6年4組の女子21名は、恒例の身体測定に臨むため保健室に集まっていた。 まだ男子最後の二人――悟くんと隼人くんが測定を終えていないけれど、他クラスの測定も残っているので急がされるのだった。今日一日で、5、6年生全員が測り終えないといけないのだ。 気まずそうに視線をそらす二人をよそに、私達は恥じらいもなく上着を脱いでゆく。 「悟くんと隼人くん、超顔真っ赤にしてますよ。聖羅様のおっぱい見せつけたら、ひょっとしておちん○ん起ちすぎてパンツ破れるんじゃないですか?」 「アハ……まさか」 「でも小学校6年生でも、早い男の子はちゃんとひとりエッチするって言いますよ。隼人くん、お家に帰ってから聖羅様の裸でおちん○ん擦ったりして」 「隼人くんはそんなことしないってば。……してもいいけど」 「もう、どっちなんですか!」 すぐさま突っ込んでくる真理奈と笑い合い、私は折り畳んだ上着を脱衣籠に置いた。 消毒液の匂いがする保健室はリノリウム張りで、病気予防のための啓発ポスターや視力検査表などが貼られている。 古びたキャビネットに保管されているのはなんの書類だろう。 カーテンで仕切られたベッドには誰も寝ていなかった。 「ほら……悟くんがこっちチラ見してる。みんな裸だから恥ずかしくて来られないんだよ」 ようやく検査を終えた悟くんがブリーフ一枚のままおろおろしていた。早く着替えて教室に戻りたいのだろうけど、あいにく、彼のズボンとトレーナーはお姫様達の脱衣場に埋もれている。チキンな学級委員長にとっては近くて遠い距離だ。 「照れないで堂々と着替えればいいのに」 真理奈が上半身裸になった。 が、保健室には21人の乙女達が半裸状態で溢れかえっている。ふくらみ始めた胸を友達と比べっこしたり、かわいいパンティをお互いに褒め合ったりしながら。草食系の悟くんが通るには無理難題に近い状況だろう。 私はキャミソールを脱いでスカートを下ろした。 「悟くんも勃起するのかな? やっぱり」 「でも起ってもちっちゃそう。包茎で短小ですよ、絶対」 真理奈がそう意地悪そうに微笑んだ時、低脳大生が声を上げた。池田先生は男だから、女子の身体測定はこいつが監督するのだ。 「ほら! お喋りしてないで早く並んで! 次のクラスが困るでしょ」 「いちいちうるさいなぁ。分かってるってば」 「うん? 佐伯さん、今なにか言った?」 「いいえ、べつに。着替えて並びま〜す」 真理奈が記録カードを持ってそっぽを向いた。 明らかに敵対的な態度だ。 そんな険悪な空気を上手く誤魔化したのは、機転が利く京子だった。 「あ。聖羅様の下着かわいい! 新しく買われたんですか?」 「え?」 「ほんとだ。超かわいいっ☆」 きゃいきゃいとクラスメート達が集まってくる。 元より馬鹿大生には面従腹背のメンバーだ。整列の指示に従わず私のもとに寄って来るのは、いわば必然だった。 「大人用のブラじゃないですか。どこで買われたんですか?」 「うん、駅前のAngel Heart。あの店って、前はアダルト層がターゲットだったんだけど、つい最近リニューアルオープンしてジュニア用も扱い始めたの。オリジナルのデザインとかもプロデュースしてるし、胸が大きめの女子小中学生に合うアイテムも結構揃ってるんだ。このブラも実は大人用じゃなくてその巨乳ローティーン用の新作。パンティとセットでかなり安かったから、お小遣い奮発して買っちゃった☆」 「えぇ〜、全然知らなかった」 「私も今度行ってみようかな」 「店員さんもかなり親切だよ。下着選びのポイントだけじゃなくて、恋愛相談とかにも気軽に乗ってくれるもん」 「ピンクのハート柄超かわいいっ。聖羅様の体にすごく似合ってる」 「やだ……おっぱい触っちゃダメだってば」 「いいじゃないですか。聖羅様の巨乳、揉ませてくださいよ」 「小学生なのにそんなおっぱいしてズルい。ちょっと分けてください!」 「ダメだってば。ちょ、ちょっとくすぐったい!」 前後左右から友達の手が伸びてきて、私のバストをこれでもかと揉みまくる。 自分で言うのもなんだけど、私はこの歳でモデル並みの容姿をしている。身長157センチ、体重38キログラム。スリーサイズはまぁこれから測定するとして、上からぼんっ☆ きゅっ☆ ぷりんっ☆ のエロエロ体型だ。ルックスは自惚れるほど美形とは思わないけれど、街を歩けば読者モデルにスカウトされる。実際、何度かローティーン用の雑誌に写真が載った。 私は軽く駆け巡った甘美な電流から逃れるように、身を縮めてエッチなイタズラから身を守った。 それでも悪ノリした京子達は胸を触りまくり、お尻まで手を伸ばしてくる。 全員を敵に回す四面楚歌のスキンシップ。理事長の孫娘ゆえの――いや、女子全員から崇敬される存在ゆえの宿命である。そこには憎悪や嫉妬心など微塵もなく、ただ楽しいだけのふざけっこがあった。 「静かにして! 遊んでないで早く並ぶの!」 統制が取れなくなった馬鹿大生が金切り声を上げた。この辺がベテランと実習生との違いだ。経験値が高い先生なら、もっと冷静に注意するのに。 と、そこで私はひらめいた。 この女への制裁は放課後と決めていたけれど、もっと好都合な方法があったのだ。体力も歳の差も考慮することのない、私にだけできる方法が。 「揉むなら私のじゃなくて先生のおっぱいにしなよ。大人のおっぱいなんだもん」 「ええっ? ちょっと西九条さんってば」 戸惑う馬鹿大生を無視して、私はするりとその背後に回り込み、やおら下から持ち上げるようにバストを鷲掴んだ。 思った通りそのボリュームは私より控え目で、小学生の手のひらに少し余るくらいだった。Eカップ。――いや、アンダーの細さを考えればかろうじてFカップだろうか。 「ほら。華穂先生のおっぱい、めっちゃおっきぃよ。それに柔らかいもん」 「嘘ですよ。絶対聖羅様の方が大きいですってば」 「ほんとだってば。私なんかより先生の方が巨乳だよ」 私の方が巨乳ね――という優越感はおくびにも出さず、私は言った。小学生に比べっこ負けした挫折感を背負って、せいぜい大学に戻ればいい。 貧乳大生が身を捩り、教え子にセクハラされた羞恥心に顔を真っ赤にする。 「男の子達がいるんだからヘンな真似しないの。悟くんも隼人くんも困ってるでしょ」 「いいじゃないですか、たった二人だけなんだもん。それとも華穂先生、私におっぱい触られるのイヤなんですか?」 「イヤもなにも、今は身体測定の時間じゃない」 貧乳大生が身をかがめる。 「じゃあ先生も測定しましょうよ。私、女子大生のバストが何センチなのか知りたい」 「馬鹿なこと言わないで。測るのは西九条さん達で私じゃないんだから」 そろそろ徴発してもいい頃だ。この馬鹿女なら間違いなく挑戦を受ける。 「あ――分かった。華穂先生、私に負けるの分かってるから逃げるんだ」 ビンゴ。 馬鹿大生の顔が急にひきつった。 「そんなわけないでしょ! なんで私が小学生なんかに」 「だったら測りましょうよ。華穂先生と私のおっぱい、どっちが大きいか」 「いいわよ。ただし私が勝ったら大人しく言うことを聞いて。整列の指示に従ってもらうのはもちろんだけど、これからは黙って授業受けますって。せっかくあんた達に勉強教えてやってるのに、あちこちでケータイ弄られたらたまんないから」 「ふうん。私達があんたを気に食わないって思ってること、ちゃんと知ってたんだ?」 「当たり前じゃない。これでも女の勘が働くんだもの、教室に漂う嫌悪感なんて察知できるわ」 私の挑戦を受けるように、貧乳大生が胸を鷲掴む手を振り払った。 「低脳でもちゃんと女の性(さが)はあるのね。少し見直したかも」 「上から目線はお爺様からの遺伝? 虎の威を借る狐は最後に泣くわよ」 「お言葉ね」 私は貧乳大生を鋭く睨みつけた。 それでも相手は怯まない。 意外と手強い女なのかも知れない。 真理奈が言った。 「もし聖羅様が勝った場合は?」 「もちろん、この女に出て行ってもらうわ。休職願いでも退職届けでもなんでも出してもらって、明日からすぐに。賄賂使って授業アンケートの評価票集めてる実習生なんか、この聖ブレスト学園には要らないもの」 隼人くんが気まずそうに視線をそらした。 悟くんは身震いしている。 「それで――誰が務めるの? おっぱい比べの公式審判を?」 自信たっぷりの馬鹿大生が辺りを見回すと、全員が険悪なムードに圧倒されて目を背けた。誤審など許されないプレッシャーのなかで、進んで手を挙げる人間などいないのだろう。馬鹿大生に軍配を上げれば、理不尽にも女子全員から総スカンされる運命が待ち受けている。反対に私に軍配を上げれば、同じく男子から嫌われる末路が待ち受けている。たとえそれがメジャーで胸囲を測るという物理的な作業とは言っても、訪れる結末はバッドエンドに違いないのだ。みんな授業中に指名されないことを願う顔をしながら、重たい空気を耐え凌いでいた。 「なによ……あんた達の方から宣戦布告していながら度胸がないのね。いいわ。私が決めてあげる」 と、松井なにがしが腰に両手をあてた。 そして暫く考え込み、やがてうってつけの人物を指差した。 「悟くんと隼人くん。あなた達に任せるわ」 「ボク達ですか!?」 「だってそれが一番公平じゃない。ハニートラップにかかった人間とそうでない人間が交互に測るなら、私も西九条さんも納得できるもの。不正がないように私達二人の胸囲をあなた達が替わりばんこに測る。二回の合計を2で割って平均値を出せば、対等な勝負サイズが弾き出せるわ」 「……」 隼人くんと悟くんは黙っていた。 馬鹿大生が続けた。 「もっとも、平均値とは言っても測定サイズにそんな誤差はあり得ないんだから、心配するもことないけど。きっと二回の測定値は同じで、私の方が勝つに決まってるわ」 馬鹿大生が笑みを浮かべ、まるで高飛車設定のアニメキャラみたいに勝ち誇った。 私のなかでいよいよ負けん気が燃え上がる。 (こんな女なんかに……!) 「西九条さんもいいわよね、このルールで」 「当然よ。文句ないわ」 隼人くんに胸囲測定してもらえるなら文句ない。 と言うか、絶対に私の方が巨乳だ。 測定係からメジャーを奪い取った馬鹿大生が隼人くん達にそれを放り投げた。 そしてニットのセーターを脱ぎ、ブラウスのボタンを外し始める。 女子プロレスラーがリングコートを脱ぎ捨てるように取り払われた上着からこぼれ出たのは、刺繍の入った木綿素材のブラ。 「残念だけど私って少し着痩せするの。さっき胸触った時、自分の方が勝ってるとでも勘違いしたでしょ?」 「……」 「でもこれが現役女子大生のバスト。意外と大きくて怯んだんじゃない?」 馬鹿大生が真正面から私の目を見据え、威圧するように胸を張った。身長差はわずかにこいつが上だけれど、バストの第一印象はやっぱり私が勝っている。こんな寄せて集めた貧乳なんかより、断然谷間が深いのだから。 「怯むわけないでしょ。そんなリフトアップブラなんか、私には小さすぎて着けられないんだもの」 「言ってくれるじゃない。じゃあ交換でもしてみる? サイズ比べの前哨戦に」 「望むところよ。ホックが弾け飛んでも知らないわよ」 「それはあんたが心配することでしょう? せっかく買った下着が壊れたら、奮発したお小遣いもパーになるんだからね」 売り言葉に買い言葉。徴発で萎縮するような相手じゃない。 私は馬鹿大生と対峙したまま、両手を背中に回してホックを外した。すぐにサイドベルトとホックが脱力し、二の腕から下げられるようになる。 もちろん隼人くんにお披露目するのは初めてだ。 (これが聖羅のおっぱいだよ。馬鹿大生なんかよりずっとおっきぃでしょ?) 片想いの男の子を意識しながら、私はためらわずブラを取り払った。これからもっともっと大きくなる張り具合抜群の巨乳。乳輪も小さ目で乳首もピンク色だ。 「わ」 隼人くんと悟くんがあんぐりと口を開けた。親友達も驚きざわめいてる。 「形だけはきれいなのね。もっとロケット型だと思ってたけど」 馬鹿大生もブラを外す。こちらは乳輪が少し大き目でお椀型だった。 「さっさと着けて。私のブラを試着させてあげるなんて、ほんとは土下座でもしてもらわないと許せないことなんだから」 「ずいぶん偉いのね。井のなかの蛙っていう諺、6年生のクセに知らないの?」 フンっ、と鼻を鳴らし、私は交換したブラを胸にあてた。 リフトアップタイプなので装着するには時間が掛かる。いちいち胸を寄せて上げないと嵌まらないのだ。 「ああ、キツい。よくこんなミニブラ着けてられるわね」 「あんたも同じじゃない。なによ、このガキサイズ」 馬鹿大生が顔を歪めながらホックを留めた。さすがにローティーン用のブラジャーだけあって、現役女子大生にはフィットしないのだ。身に着けたあとも居心地が悪そうに、左右のバストを押し込めたりストラップを直したりする。 「これって引き分けなのかな、やっぱり」 真理奈がつぶやいた。 クラスメート達が顔を見合わせている。 けれどここで負けるわけにはいかない。たとえ前哨戦とは言え、この勝負には乙女のプライドがかかっているのだから。 私は馬鹿大生のブラを破壊するように胸を張った。 木綿素材のカップが私のEカップを締め付ける。サイドベルトがめりめりと音を立てて(立てたような気がした)はちきれそうになった。やはりオーダーメイドのリフトアップブラは、張り具合満点のバストには合わないのだ。これが柔らかい木綿素材ではなく合成繊維のフロントホックだったら、間違いなく留め金は吹き飛んでいた。それくらい思春期のふくらみは強いのだ。 馬鹿大生もハート柄のブラを壊そうと躍起になっている。 が、伸縮性のある素材がそれを許さない。日進月歩で成長するローティーンバストに対応できるよう、私のブラは特殊加工なのである。いくら巨乳自慢の女子大生が胸を張ったところで、ローティーン用のブラには許容範囲だ。ホックが弾け飛ぶどころか、柔軟なサイドベルトがそれを受け止める。 前哨戦は引き分けに終わった。 真理奈達がその結果を告げる。 「……というわけだから早くそのブラ返して。貧乳大生に着けられてると、せっかくのデザインもダサく見えるもの」 「それはこっちのセリフよ。それでも上質な木綿素材なの。ガキパイに包まれてるとデザイナーが泣くわ」 ジャブの撃ち合い。いや、力量の探り合いといったところだろうか。 私は返してもらった新作ブラを手にしながら、乙女のプライドを意識せずにはいられないでいた――。 『乙女のプライド』第二章へ続く。 |